「白雪ちゃん」
「おはようございます」
「…おはよう?」
尚、これまでの会話私は相手の声が一切聞こえていない。
そして目を瞑っている為、相手の顔も見えていない。
これが、私が…その、立花先輩と少しでも仲良くなる為に必要な椿さんから与えられた指令だ。
私は人として残念な事に、立花先輩を認識した瞬間に暴言を吐く。だからまずは立花先輩だと認識せずにとにかく挨拶する習慣をつけようと。
現在、私は耳栓をし目を瞑ったまま椿さんに手を引かれ、椿さんが強く手を握って来た時のみ挨拶の言葉を出すからくりと化している。
「…六年長屋はこの辺…だった気がするんだけど」
それにしても椿さんの足取りが不安定で心配。視覚も聴覚も使えないから、例えば触覚とかに関わる落とし穴に落ちない限りは私が助ける事は出来ない。
「あ。白雪ちゃん」
二回握られた…って事は、二人。手の甲を軽く叩かれたから相手は先輩。
「お二人共、おはようございます」
「…あ、ああ」
「…」
すぐに腕を引かれまた歩き出す。
少し歩いた所で椿さんの足が止まった。いきなり耳栓が外される。
「本日のミッション達成です!お疲れ様!」
「…え?!わ、私たた立花先輩に挨拶してたんですか?!」
椿さんのその言葉の意味に、私は顔を青くしたらいいのか赤くしたらいいのか分からず、微妙な顔で椿さんの顔を見た。
「いやー、白雪ちゃんくのたまだし、匂いで相手判断出来ちゃったらどうしようかと思ってたんだけど、良かったぁ」
「…あ、それは私立花先輩と会う時匂いを覚えているような余裕無いので。それに立花先輩も忍たまとして香は纏っていないでしょうし」
「あー成る程納得」
うんうんと頷いた椿さんは、その後そういえば言い忘れたけど、と笑顔でとんでもないことを言った。
「ちなみにこれ、とりあえず一週間は続けるからね」
「ええぇ?!」
……立花先輩、私に挨拶されて何思ったんだろう。いや、別に何か思うはずない、か。思ったとして…怪訝に思うぐらいかな…。