砂糖菓子の自棄

椿さんへの皆の対応が冷たいことぐらい気づいていたけど、だって此処はそういう場所。仕方ないこと。何かあったら護るけど、あくまで仕方ないと思っていた。
私はくのたまの五年生だったから。

「椿さーん…っ!!」

だから朝迎えに行ったら椿さんがいなかったことに肝を冷やした。だって、あの人自分一人じゃろくに着物も着付けられないのに。だから、一人じゃない。
そうして誰も見てない場所での鍛錬なら未だしも、忍務も組手も簡潔に最小限の動きでこなす私には珍しく、汗だくになって学園中を駆け回った。

ああ、いない。いない…!
どうしよう、私世話係なのに。椿さんが帰るまで面倒見…あれ、もしかして椿さんただ帰っただけとか?
……うん、それならいい。それなら、全てが万々歳。
でももしもが怖いから駆け回って、駆け回って、、

「白雪、ちゃん…」

作法室で立花先輩の前に座ってお茶している椿さんを見た瞬間に、温厚だと自負している私の脳内からぶちっと音が聞こえました。

「借りてるぞ」
「…」

しれっと言った立花先輩と窺うように私を見る椿さんに、どうせ私を困らせようと立花先輩がわざとこんなことしたんだってぐらい、わかる。
立花先輩と椿さんが一緒にいたことを責める権利なんて、私にはなくて、立花先輩が誰を好きでも私は何も言えないし、椿さんが誰を好きでも同じ。

「椿さん、行きますよ」
「は、ははははい…っ!」

椿さんの腕を引き、立花先輩を一睨みしてから作法室を出る。椿さんの着物はしっかり着付けられてるし、このまま朝食に行こうかな。ああもやもやする。
私の頭の中のもやもやは知らないだろうに、何故か椿さんはいやに怯えていた。立花先輩に何かされたのかと、またその何かが何なのか、と勝手に考えていらっとしてしまったところで気づく。
…ああ、さっきの私に怯えてるのかな。立花先輩に椿さんを近づけないようにしてたから、立花先輩の前限定の最悪な私を椿さんは見たことないもんね。

「椿さんに怒ってるんじゃないので、大丈夫ですよ」
「うん…それはわかるんだけど、」

だけど?
口ごもった椿さんに、きょとんとして視線で問う。椿さんは言うか言わないかを考えるように数秒視線を下げ、意を決したように私を見た。

「白雪ちゃん、立花君が好きなんでしょ」
「違う」

気づけば即否定していた。心臓が煩い。うそ、適当に言っただけだよね?だって、今まで誰にも気づかれたことない。
こんな一般人に、気づかれるわけ――

「じゃあ嫌いなの?」
「嫌いですよ」

嘘だけど。

「うん、嘘だね」
「…なんで」
「立花くんね、白雪ちゃんのこと気にしてたよ?」

なんで、アナタがそんなこと言うの。
他の誰に言われてもいい。でも、だって、

アナタは、立花先輩を連れて行っちゃうんでしょ…っ?!

「っやめてよ!」
「…」
「私は、違う!立花先輩なんか、ちがう…っ!やめて、いやなの、言いたくないのに…!本当のこと言えないのに!立花先輩のこと、私に聞かないでっ!言わないでっ!」

椿さんを睨んで、泣いて、喚いて、ああやだ。八つ当たりもいいとこ。椿さんは何も悪くないのに。

でも私、これでも全然努力しなかったわけじゃない。
頑張って、笑おうとして、好かれたくて、せめて普通にって、嫌われたくなくて、なのに頭真っ白になってできないの。どんなに繰り返しても、何回努力しても、駄目なんだもん…っ!

こんな私、だいっきらい。


自棄:頭の中ぐちゃぐちゃになって自分なんてもう見捨てちゃえ、みたいな感じ

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