白石と私の関係はまさに、親友以上恋人未満だ。
どう考えても私達は両想いだし、何度か白石に告白されそうになったこともある。
でも、何だろう。何と言うか…恋人って嫌。面倒臭そう。今の関係最高。
そんな理由で今日も、私と白石は親友以上恋人未満。
「先輩、そんなん言うて部長に彼女できたら泣くんやろ。ああ、ホンマめんどい女ですわー」
「財前、先輩の心を抉って楽しいかい?」
「そこそこ」
財前は私の中でめっさ可愛いけどめっさムカつく後輩です。だけどやっぱり好きです。
「でもさ、彼氏とか彼女って…ああもう背中かゆい」
「先輩子供やなぁ」
「後輩黙れー」
そんなことを財前と話していた日の放課後、私と白石はやっぱりまるで恋人のように今日も二人連れ添って帰路に着く。
「なぁ、」
「ん?何、白石」
「…いや、夕日が綺麗やなって」
「そうだね」
上を向いて歩く。確かに綺麗だ。
空気なんて読まない。
「あ」
白石が後ろで小さく呟いたのに振り返ろうとした瞬間、鋭い程の光に目が眩んだ。
それが車のヘッドライトで、私に向かって突進してきていることに気づいたのは――もう間に合わない瞬間で、
白石の声が聞こえた気がした。
気づけば、私は道路に横たわっていた。地面側にある左の腕から脚にかけてが強く擦ったように痛い。痛い、けど…車に轢かれたにしては、軽傷過ぎる。
辺りは酷い騒ぎだった。夕日に染まった空からして、あれからそう時間は経っていないらしい。私は身体を起こし、辺りを見回す。
まず最初に白石のあの明るい髪が見えて、それから身体が、真っ赤な、え…?
待って。
何で白石がそこに、車の前にいるの。
何で、私が車に当たったんじゃなかったの?
何で…なんでっ?!
…白石に突き飛ばされた?
あ。あ、ぁ、あ。あああぁあああああああっ…!
目の前で、真っ赤に染まった…嘘、うそうそうそ。白石がこんなところで、私のせいで。アンタ、テニスそんな腕じゃ、大会は、部活、私のせい。
勝手に溢れる涙で、視界が曇る。それでも私は涙を拭いもせずに急いで白石の所まで這っていって、真っ赤になった手を握った。
「っ白石!白石…!やだ!死んじゃやだ!」
みっともなくパニックを起こして喚く私に、まだ意識のあるらしい白石がゆっくりと黒目を動かし、私を見る。
白石は笑った。
「だい、じょぶ」
「何処がよ…!全然、大丈夫なんかじゃないっ!」
叫ぶ私に、白石は笑ったまま動かすのも辛いだろうに、手を伸ばして私の頭を掴み、横たわった自分の頭に引き寄せた。
地面についた髪の毛が、白石の血に濡れた。
吐きそうな程の鉄の臭いがした。
だけどすべてが優しかった。
「はは、ごめん。ファーストキス…もらって、しもうた、わ…」
そう言った白石の表情があまりにも綺麗で、淡い微笑みのまま私の頬から落ちていった手も、野次馬の声も、全てが現実味を帯びていなくて、息が出来なくて、綺麗で、耳鳴りが痛くて。
美しい程簡単に、終わりを迎えた。企画:
アルテミスの賛美歌様提出