女主短編 | ナノ




氷帝学園で生徒会副会長をしている名字名前は、特別何かが秀でているわけでもない一般的な女子生徒だった。
正直、名字より仕事の出来そうな奴はいくらでもいたし、名字は要領が悪い。なら何故、コイツが副会長なのか――

「会長を陰ながら支え、氷帝学園をより良い学校に導きたいです」

その演説で、俺が名字を副会長にと推し、名字自身交友関係は広いらしく票が集まったからに他ならない。


「わかったか?」
「え、あの、まったく…」

苦笑する名字に、次の書類の束を投げた。キャッチ出来ずに落とす辺り、相変わらずどん臭ぇ。
名字に、何故自分は副会長になれたのかと三年の中盤である今になって聞かれ、懇切丁寧に答えた結果がこれだ。本当、頭は良くねぇな。

「会長って、言っただろ」
「……ああ、役員選挙の時ですか?だってそりゃ、」

会長は会長でしょう?
さも不思議そうに、だから何だと首を傾げる名字に笑いが溢れた。名字は何で笑うんですか?!と怒ったように訴えてくる。

「お前だけだろ」
「へ?」
「俺を会長と呼んだのは、お前だけだった」

跡部様、他の奴等は魂胆見え見えの顔でそう呼んだ。
未だに、名字は俺を会長と呼ぶ。仕事は早くはないがそれなりに出来るようになった。一度も辞めたいと言わなかった。弱音も吐かなければ泣きもしなかった。俺との会話も、業務連絡か世間話の域を越えない。

副会長になれば必然的に、俺のファンクラブに嫌がらせをされるなんてわかりきっていることだ。
だが、名字は一度足りともその片鱗を見せなかった。

「名字」
「え、は、はい!」

俺のさっきの言葉の事でも考えていたんだろう名字は、驚いたように顔を上げた。
生徒会室の窓から、夕焼けが射し込む。他の生徒会メンバーは全員、この時間にはもう帰っていた。

「お前が副会長で良かったよ」

目を見開き、それから顔を赤く染め上げた名字は、次の瞬間には落ち着きなく音を立てて立ち上がった。

「ゆ、夕焼けのせいですから…っ!!」
「聞いてねぇよ」

笑えば、名字は居たたまれなくなったのか顔を俯かせてまた椅子に座り直した。
俺が立ち上がり名字まで近づけば、名字は過剰反応で肩を跳ねらせる。

「お前はまだ残るか?」
「ぅえ?あ、はい!仕事溜まってるのでっ!」

生徒会室の鍵を名字の机の上に置いて聞けば、やっといつもの調子で意味のわからない敬礼をした。

「そうか、じゃあ鍵頼んだぞ」
「はい!では会長、また明日学校で!」
「ああ」

俺は薄く笑って、生徒会室を後にした。


これが名字をまともに見る最後なんて、思ってもみなかった。





次の日、いつも通り車で学校まで行くと、まず校門前のパトカーが目についた。俺は眉を寄せながら車から降りる。

「おい、何があった」
「きゃっ!跡部様!」
「…で?」
「あ、えっと…」

俺が聞いたにも関わらず、女は言いづらそうに口ごもった。嫌な予感が胸を過り、俺はそれを振り切るように仏頂面を作る。

「アーン?俺の質問に答えられねぇってのか?」
「いえ、その…そういうわけ、では…」
「俺は暇人じゃねぇんだ。早く言え」
「…副会長の名字名前さん、が、」
「名字が?」

女に告げられた笑えない話に、咎めるより先に俺は走った。

動悸がする。暑くもないのに汗が流れる。嫌な予感が止まらない。

「おい君、此処から先は立ち入り禁止だ!」

警察の静止を振り切って、立ち入り禁止と化した校庭で俺が見たものは――



赤く染まった、




自殺はあり得ないから、犯人を捜させた。
犯人の末路は想像に任せる。まぁ、えげつねぇもんだろうな。

…アイツの最後の何気ない一言が、頭から離れない。
せめて名字が普通にさようならと言っていれば…しばらく、忘れられる気がしねぇ。

「また明日ね」って呪われた
(お前の言う明日はまだ、来ない)


お題:告別様より

星屑花火の塩様へ相互記念贈呈


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