*注意





臨也さんは私にとってみれば、いわば神様仏様の存在である。それは絶対に崩れる事はない私のルールだ。
だから、臨也さんの一番に為りたくて、言われた通りに私は仕事をもらっていた。株を上げるために。捨てられないために。競争率は激しいのだ。
私は何でもやった。合法ギリギリな所まで手を出した。でもただやるだけじゃ駄目で、成功させてこそだ。その点で私は臨也さんから信頼されている。臨也から頼りにされることが私の幸せだ。


空は見惚れる程綺麗なオレンジだった。学生や主婦立ち寄る八百屋やクレープ屋など立ち並ぶ商店街に出てフードを取った。なのに、ぶすり、と刺した気持ち悪い感触が抜けない。右ポケットの中身ではべたつくナイフが燻っている。
早く、伝えなければ。
虚ろな動きで臨也さんの携帯に電話をかける。

「…もしもし臨也さん?終りました。」
「あ、名前?何回刺した?」
臨也さんの声は業務連絡を読んでいるみたいに淡々としていた。
「え?」
「だから何回刺したのって聞いてるんだけど。あれ?まさか、シズちゃんがたった1回刺しただけで死ぬって思ったの?」
「あ、いや、確か3回くらいです。」
「3回か。死んだ?」
「いや…」
「ま、予想通りかな。ありがとうね。報酬はいつもどうりで良いよね。じゃ」
ピ、という電話を切る音が妙に響いた。







彼、平和島静雄を見つける事は簡単だった。
それは彼が有名人ということもあるだろう。そして今回の仕事は非常に単純明快。平和島静雄を殺すだけ。ここで問題が一つあって、平和島静雄がとてつもなく強いことだ。だからだろうか、ナイフを持つ手が震えている。今まで人を刺す所業はしてきた事が無いものだからか。いや違う。私はとにかく恐れている。

案外、平和島静雄は背中を見せてくれた。それが私の恐怖を幾らかほぐしてくれた。私は意を決してナイフを背中に刺した。
ぶすり、確かに手応えはあった。平和島静雄は微動だにしない、死んだか…!

ナイフを引き抜くと同時に、「あー、なんか背中痒いな」と聞こえた。
一緒、何がどうなっているのかわからずフリーズした。しかしすぐに平和島静雄が生きていると気付いた。そこからは早く、また刺した。何回も何回も。そのスピードはだんだん速くなる。

「何してんだテメェ…」
ひどくくしゃくしゃな顔をした平和島静雄が私を直視していた。
「死んでない…!」
「…お前クソ蟲の取り巻きか?」
「そうよ。だから何?早く死んでよ臨也さんの為に!」
「俺はこんな掠り傷じゃ死なねぇ。」

頭を鈍器で殴られた気分になった。掠り傷?ふざけている。じゃあ何で殺せば良いのだ。これでは失敗してしまう。臨也さんに失望される。
嗚呼、私は臨也さんからの信頼が崩れ落ちるのを恐れていたのか。

「つか、あいつからつるむな止めとけ。じゃあな。」
平和島静雄はいつの間にか機嫌が治っていた。彼の私の頭をくしゃりと触る手があまりに優しいから汚してしまいそうだった。






逸れから少し歩いた。今でのこと、これからこと。考えてみたけど、やっぱり私みたいな女はもう戻れないんだな。染まって行くしかないのだ。
未だ右ポケットでは血にまみれたナイフが主張していた。堪えられずに私はゆっくりとフードを被った。






深海で溺死/110815





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