氷る猫の暗躍 | ナノ
08.秘密基地探してみる
【星空みゆき】
「帰る途中に思いついたんだけど」



不思議図書館に帰り着き、みゆきちゃんから放たれた第一声はこれだった。
全員で「ん?」とみゆきちゃんを見やる。



【星空みゆき】
「本の扉にお願いしてみようよ!

『私たちにふさわしいところに連れて行ってください』って」


【緑川なお】
「場所選びは本の扉に任せるってこと…?」


【星空みゆき】
「うん!きっと皆のイメージに合う素敵な場所を見つけてくれるよ!」


【日野あかね】
「なるほど、ええかもな!」



満場一致で、再び本棚へ歩み寄る僕たち。
みゆきちゃんが代表として、「じゃあいくよ」と本棚に手をかける。
が、それより一瞬早く、あかねちゃんが顔の前で両手を合わせ、



【日野あかね】
「本の扉様様お頼み申しますー!」



と、まるでお寺のお賽銭箱にお賽銭を放り込んで神頼みするかのように祈りをささげていた。
そんなあかねちゃんに、れいかちゃんが努めて冷静に、「声に出さなくて大丈夫ですよ」とつっこんでいた。いやつっこみというか、ただ返事を返すように言った。
そんなれいかちゃんの返事に、あかねちゃんは「へ?」と間抜けな声を出す。
やよいちゃんも、「願い事は口に出して言うもんじゃないんだよ」とあかねちゃんに返す。
あかねちゃんはばつが悪そうに、「あ、そうなん?」と言っていた。
なおちゃんも「あかねってばー」と呆れたように笑っていた。
僕も続いて、「さすがあかねちゃん。ちゃんとこんなときにでもボケてくれる君が好き」と返す。
あかねちゃんは「あ、ボケってことにしてくれんねや」と言っていた。ちょ、あかねちゃんそれ言ったらさっきのボケ天然物って言ってるようなもんやん。僕のフォローどうしてくれんの。
僕らのこんな戯れに、みゆきちゃんはおかしそうに一つ笑うと、本をスライドさせ扉を開いた。
本棚から光が溢れ出し、みゆきちゃんたちを引き入れる。

そうして、その光が最後尾にいた僕のところまで来る――一瞬前。

僕は数歩本棚から離れ、不思議図書館内にとどまった。
行くつもりがないことがわかったのか、みゆきちゃんたちを引き入れた本の扉は閉じる。



【ティオ】
「……よし」



なにがよしなのか。
言わずと知れたことだが、僕はみゆきちゃんたちほど純粋じゃない。
人生経験の差もあるが、なにより根本的に価値観の違う存在だ。
彼女らのように純粋に秘密基地の場所を本の扉に求めることはできないだろう。
今までは彼女らの後についていくとだけ念じていたが、今回はそうはいかないだろう。
おそらくだが、今回ばかりは満場一致の意見でないと辿り着けないかもしれない。
僕が混ざることによって、行き着いた場所がろくでもないところになる可能性を考え、僕はあの輪から進んで外れたのだ。
少しして、『みんなのいる場所へ』と念じ後を追えばいい。
皆から「どうして遅れてきたの?」と問われれば、「忘れ物して取りに行ってた」とでも言えば納得してもらえるだろう。
僕は鞄を抱え直し、再び本棚へ近づいた。
そういえばこの鞄、何が入ってるんだろ。
ジョーカーが適当に詰めてはくれたと思うんだけど…ならなんで本人の前で確認してはいけなかったんだ?
鞄から漂ういい匂い……食べ物であるとは思うんだがね。
なんて思いながら、鞄を開こうとボタンに手をかけていると、




【キャンディー】
「不思議図書館に戻ってきたクル」




なんて、あの妖精の声。
僕は思わず、「へ?」と顔を上げる。



【日野あかね】
「本の扉壊れたんか?ウチらだけのすっごい楽しい秘密の場所って念じてんけどなー」



本棚出てきたみゆきちゃんたちは、最初この不思議図書館にやってきた時のように辺りを見回していた。
そして先ほどのあかねちゃんの言葉。
その言葉に、僕とあかねちゃんを除いた他の四人は一斉に「え?」とあかねちゃんを見た。
見られたあかねちゃんも、「え?」と皆を見返す。




【黄瀬やよい】
「わたしもだよ?」


【緑川なお】
「あたしも!」


【青木れいか】
「あら…皆同じことを考えたんですね」




彼女らの言葉に、「あーやっぱついてかなくて正解だったわ」と僕は胸をなでおろす。
そんな純真潔白なこと、僕には考え付かないって。




【星空みゆき】
「そっか……ここなんだね。

わたしたちの秘密の場所は、最初からここにあったんだよ!」



みゆきちゃんの言葉に、皆が意外そうな顔をする。



【黄瀬やよい】
「ここって……ここ?」



不思議図書館を指さすやよいちゃんに、みゆきちゃんは笑顔で「うん!」とうなづく。



【星空みゆき】
「どんなところかなんて、こだわらなくても良かったんだよ。皆一緒に楽しく過ごすことができたなら、そこはもう、わたしたちの素敵な秘密の場所なんだよ!

きっと、不思議図書館はそう言ってるんだと思う…」



なんだ。つまりどういうことだってばよ。
……えーと、あれか?
不思議図書館は、「ここええやろ、どや!」って感じで自分勧めてきたの?そういうことなの?ナルシストなの?
微妙な気持ちになる僕とは対照的に、皆は納得したようで晴れやかな顔つきになった。



【日野あかね】
「ほんまやな。確かにここが……一番落ち着くわ」



それぞれが思い思いに、腰ほどの高さのある大きなきのこに腰掛けていく。



【黄瀬やよい】
「うんっ」


【緑川なお】
「だいたい、秘密の場所ってここくらいしか思いつかないしね!」


【青木れいか】
「そうですね」



僕もうなづきながらきのこに腰掛ける。
っていうか、皆がここに戻ってきたとき、僕がいたことに疑問はないんだろうか。
もしかして自分たちに付いてきてたって思ってくれてるんだろうか?
それなら無駄にごまかす必要もなくて楽なんだけど……。…うんまあ、そういうことにしておくか。



【星空みゆき】
「うん!…………あ、」



そうして、ワントーン下がったみゆきちゃんの声に現実に戻される。
どうしたんだってばよって……あ。




【星空みゆき】
「もう少し……近いほうがいいね」



僕らが腰掛けたきのこは群生しているわけではなく、それぞれがこの不思議図書館内にポツンポツンと生えているので、場所によっては遠い。
特にあかねちゃんは遠すぎる。「なにー!?もういっぺん言うてー!!」って大声で聞く時点でムリあるだろ。



というわけで、一つのきのこに固まって座ってみたが今度は狭い。あと近い。近すぎる。押しくらまんじゅうかなんかか。あついんだよ!!
下唇を噛んで、「フンヌゥアッ」と耐えていると、



【キャンディー】
「みゆき、星デコルでデコレーションするクル!」



と、キャンディーが僕らの間から姿をのぞかせ、そう言った。



【星空みゆき】
「え?うん…」



キャンディの言葉通り、みゆきちゃんはスマイルパクトに星デコルをセットした。
すると、スマイルパクトから光が打ちあがり、上空で霧散する。
霧散した光は雪のように降り注ぎ、さながら幻想的な風景を作り出していた。
その光は、この不思議図書館内でもひときわ大きい、巨木の切り株に降り注いだ。
すると、今まで大きすぎる以外はなんの変哲もなかった切り株に、窓が、扉が、付いた。
恐る恐る中を覗いてみると、



【ティオ】
「え、嘘」



中には、建物どころか家具まで完璧に配置されたワンホームのようなたたずまいになっていた。
みゆきちゃんたちは大はしゃぎで中へ入っていく。



【緑川なお】
「ここ使っちゃっていいの!?」


【日野あかね】
「こらキャンディー!こんなんできるんなら、あちこち行かんと最初っからこうしとけば良かったやろー!」



なおちゃんはバスケットを机の上に置き、あかねちゃんは口調は怒りつつも嬉しそうにキャンディーに頬擦りをしていた。



【星空みゆき】
「ううん。いろんなところを見てきたから――だからこの不思議図書館が素敵な場所だって気づけたんだと思う!」


【日野あかね】
「…うん!そうかもしれへんな!」


【緑川なお】
「ここじゃないって最初に言ったのあかねだからねー?」


【日野あかね】
「うぅっそれを言わんといてーっ……」



二人のコントを聞きながら、僕は椅子を引きそこに座る。
すると、なおちゃんが「はいっ」と黒のコップを僕に出してくれた。
柄を見る限り、皆が今手に持ってるのと同じシリーズなんだろう。
それぞれのイメージカラーにあったコップだ。



【緑川なお】
「そういや、ティオはなに持って来たの?」


【ティオ】
「え?あー、それはねー……」



僕は鞄を机の上に置き、中の物を取り出す。




【緑川なお】
「…箱?」




そう。中から出てきたのは箱。
箱が縦になって入れられていたのだ。
しかもこの箱、見るからに……



【緑川なお】
「ちょっあんたこれっもしかしてケーキの箱じゃない!?縦にするとかバカじゃないの!?」


【ティオ】
「ふぇえええ」



見るからに焦るなおちゃんに、あざとく困った声を返す。
しかし実のところ僕だって焦ってる。
なんだって縦に入れたんだジョーカー!?
急いで箱を開き、中を確認する。



【ティオ】
「あっ、あー……」



出てきたのは。
ワンホールの、真ん中に穴が開いたあいつ。
シフォンケーキが出てきた。



【緑川なお】
「あー……これなら縦にいれても大丈夫か…」



型にはまった状態のシフォンケーキは、それ単体でおいしい代物なので装飾を気にする必要もないし、そもそも型のままなので型崩れも心配ない。



【緑川なお】
「もしかしてこれ、ティオが?」


【ティオ】
「まっさか!僕のお嫁さんですー」



僕の発言に、なおちゃんは「なんだそりゃ」と笑った。
そして、箱の奥のほうに紙切れを見つけ、手元に寄せてみる。
そこには、


『毒なんて野暮なものは入ってないので皆さんでどうぞ』


と、見慣れた文字で書かれていた。
僕はフッと笑うと、その紙を何重かに折ってポケットに捻じ込んだ。



【日野あかね】
「うわあっ!なんやそれ!食べてもええん!?」


【緑川なお】
「切り分けるからちょーっと待ちなさいよー?」



なおちゃんが型からシフォンケーキを外し、バスケットからナイフを取り出し切り分けていく。
さすが大家族の長女、こういう時の仕切りも切り分けもうまい。

そうして、なおちゃんが均等に切り分けたシフォンケーキを皿にのせ、全員に配っていく。
上の階にいるみゆきちゃんに渡し終えたところで、下の階の四人がこちらを見上げた。



【緑川なお】
「見つかったね。あたしたちだけの秘密の場所」



【星空みゆき】
「うんっ!


それではっ、わたしたちだけの秘密の場所、『不思議図書館』にぃ〜……」



「「「カンパーイ!!」」」



こうして、長い探検の末、この不思議図書館に腰を落ち着けた僕たちでした。




密基地探してみる




……まあ、結局は僕というスパイがいるので、バッドエンド王国側にはダダ漏れだから秘密もくそもないのだが。
そこは知らぬが仏というわけで、だまっておこうと思う。
いや仕事の関係上口が裂けても言わないけどね。



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星デコルの無限の可能性に興奮が隠せません。
是非我が家にもおいでいただきたいです。
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