氷る猫の暗躍 | ナノ
07.決め台詞とか決めてみる
バン!!



扉を開けると同時に冷気が体を包む。
日本じゃ味わうことすらなかった程の冷気が。
横のみゆきちゃんは体を抱くように縮こまらせていた。
それに反して僕は瞳を輝かせた。




【ティオ】
「お?お?おお?おおおおおおおおおお!!!!」




輝く瞳に比例するように、僕のテンションも急上昇。
きゃっほー、と外へ飛び出す。
後ろからみゆきちゃんの声が聞こえたが、知るか!!今の僕を止められるものはなにもない!!僕を止められるのは僕だけえええ!!
なぜか服すらわずらわしく感じ、走りながら脱ぎ捨てる。
いや、服じゃない。今僕が脱ぎ捨てたのは服じゃないんだ。
そう、それは心の壁。心の鎧。きっと僕が脱ぎ捨てたのはそんなものだ。
解放感とマイナス気温に身を包まれ、心の鎧を脱ぎ捨てた僕は下着姿で南極を走り出した。

ああ、素敵だ。何も防御せず解放感に身を任せることはこんなにも心地のよいものだったのか――!!

靴すら脱ぎ捨て、氷を蹴って走る。
巻き上がった雪が体にあたり気持ち良い。
うふふあははと走っていると、


スコンッ!!


小気味の良い音と共に、前方に一枚のカードが氷に突き刺さった。
異様な光景に、僕は爆走を止める。
カードは裏側を僕のほうに向け氷に刺さっていた。
よくよく見てみるとこのカード、どうも見覚えがある。
記憶をさかのぼってみる……と、ああなるほど。この柄、ジョーカーの使ってるトランプの柄だわ。
僕は突き刺さったカードを抜き取り、裏返して普通数字やマークのあるほうを見てみる。
そこには、



『はしゃぎすぎて我を忘れないように』



事務的な一文。



【ティオ】
「…………」



スコン、とまた小気味の良い音が響く。
僕の足元、すぐにまたカードが。
無言で拾って裏返す。




『いい年なのを忘れないこと』




後ろをバッと振り返ってみると、空に空間の裂け目が出来てバッドエンド王国に繋がっているようだった。
慌てて消えたその裂け目からは「(ノ;゚Д゚)ノアワワ」といった感じに引っ込む馴染みの姿がはっきり見えた。




【星空みゆき】
「ティオちゃーん!!」




後ろからみゆきちゃんの声が聞こえる。
手に抱えた服はどう考えても僕のもの。わざわざ持ってきてくれたのか…。




【星空みゆき】
「どっ、どうしたの急に!?」


【ポップ】
「ぬおっ!?な、なぜ下着姿なのでござるか破廉恥な!」




みゆきちゃんの足元のポップが顔を真っ赤に染めて両手で顔を覆っていた。女子か。




【ティオ】
「うん、ごめん。テンション上がりすぎて我を忘れた」


【星空みゆき】
「そ、そうなんだ。あっ、ほら早く服着て!」




急かされながら袖を通す。
完全に服を着た僕に、ポップが怪訝そうな顔で、




【ポップ】
「……お主は何故にそのように落ち込んでいるのでござる?」


【ティオ】
「気にするな。人生とは後悔後先たたねえもんなんだよ」




二枚のカードを握り締めながら僕は呟く。
また一枚ページが追加された。僕の黒歴史という名のページが。




空が雲に覆われ、雪が舞いだした。
心地の良い冷気にまとわれ、僕は気分が良いが、平行して歩くみゆきちゃんは寒そうに体を縮こまらせていた。
ポップはどうどうと歩いている。やはり毛皮か……。




【ポップ】
「みゆき殿、ティオ殿」



そんな中、ポップが切り出した。



【ポップ】
「キャンディーは、迷惑をかけてはおらぬか?」


【星空みゆき】
「え?キャンディー?」



みゆきちゃんと顔を見合わせる。
僕は解答をみゆきちゃんに託すと、みゆきちゃんは目を閉じて、まるで思い出すかのように答えた。




【星空みゆき】
「キャンディーは始めて会ったときから、すっごく一生懸命だよ。迷惑なんて、何にもないよ!」




特にコメントすることもないので、みゆきちゃんの言葉に頷いておく。
しかしポップの表情は晴れることなく曇ったままだ。




【ポップ】
「……左様でござるか」


【星空みゆき】
「でも、どうして?」


【ポップ】
「キャンディーは頑張り屋でござる。でも本当は、泣き虫で寂しがりやなのでござる。拙者はメルヘンランドへ帰らねばならぬ。しかし、キャンディーには笑顔でいてほしいのでござる。だから――」




みゆきちゃんは跪いて、ポップの手を握り、




【星空みゆき】
「そうだよね、やっぱりスマイルがいいよね。大丈夫!わたしたちもキャンディーのこと、大好きだもん!」



ねっ、と言われたので笑顔で頷く。
僕は浅く付き合ってるからそれほどキャンディーと関わりはないが、まあ頑張る姿には敵ながら好感持てるし。
そうしてやっと、ポップはその表情に安堵の色を浮かべた。




【星空みゆき】
「ん?」


【ティオ】
「え?」


【星空みゆき】
「笑顔……スマイル……」


【ティオ】
「みゆきちゃん?」


【星空みゆき】
「閃いたー!!」



勢い良く立ち上がったみゆきちゃんが、両手を左右に突き出す。
その突き出された手が僕の顔面にクリーンヒット。そのまま氷に突っ伏した。
ふっ……やるじゃねえか……。
みゆきちゃんに平謝りされながら、僕はそう思った。



 
<<>>
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -