氷る猫の暗躍 | ナノ
07.決め台詞とか決めてみる
【ウルフルン】
「起きろティオ!!」


【ティオ】
「にゃああぁぁぁぁ……」



起こしに来てくれたウルフルンは僕の掛け布団をひっぺがし、敷布団を持ち上げ床に転がした。
いきなり外気に包まれ、ひやりとした寒気に覆われる。
僕は冷たいものが好きだ。それは例えばアイスや氷。または雪。だからこの布団から出た直後のひんやりした外気も好きだったりする。
そのまま再び眠りにつこうとしたところで首根っこを掴まれる。
そしてそのままズルズルと引きずられた。



【ティオ】
「いやん、優しくしてぇん…」


【ウルフルン】
「きめえから」



大概失礼だ。



【ティオ】
「にゃーん…トランプしてたのー?」


【アカオーニ】
「ババ抜きオニ!」


【マジョリーナ】
「これで今日は誰がバッドエナジーを収拾しに行くか決めてるんだわさ」


【ティオ】
「へぇ〜」



皆で行けばいいじゃない。と思うのだが、きっとこれはタブーなのだろう。



【アカオーニ】
「ウルフルン、はやく席につくオニ!続きできないオニよ」


【ウルフルン】
「うるせぇ!わーってるよ」



アカオーニがウルフルンに、早く席につくように急かす。
それをうっとうしそうに制して、今まで伏せていた手札であろうカードを拾い上げていた。
どうやら僕を起こす時間だということに気づき、律儀にも一時中断してくれていたらしい。
僕を起こしている間、伏せられたカードを盗み見ることはきっとこの悪役二人はしていないだろう。
前にもこんなことがあった時、僕がおどけて「カード見てないよなw」って言ったら、「そんなことしたら面白くないオニ!」「ティオはまだまだ勝負の面白さをわかってないだわさ」と言われてしまったことがある。

この悪役たち、下手したら人間よりピュアなんじゃないか。

って思った僕悪くない。
だって絶対今時の政治家のほうがウルフルンたちより危険思想だよ。間違いないよ。



【アカオーニ】
「ティオも混ざるオニか?」


【ティオ】
「んー、いいやぁ。僕潜入捜査あるからバッドエナジー収拾の暇ないし」


【マジョリーナ】
「つれないだわさ」


【ウルフルン】
「けっ、ほっとけほっとけ」



この話は終わったようで、再びババ抜きが再開される。



【アカオーニ】
「それにしても……うっ」



ウルフルンの手札から一枚カードを引いたアカオーニの顔が曇る。



【マジョリーナ】
「プリキュアが五人もいるとはねぇ。……ふんん」



アカオーニの手札から一枚カードを引いたマジョリーナの顔も曇る。



【ウルフルン】
「全く忌々しいぜぇ。……ぬお…」



マジョリーナの手札から一枚のカードを引いたウルフルンの顔も曇る。




こいつら顔面に心情さらしすぎだろう。




ちょっと遠くで眺めていた僕の顔が引きつるのがわかった。こいつら嘘つくの下手だろうなぁという思いをこめて。
ハハ、と乾いた笑いを零しつつ引きつった顔を手で解し、元の表情にする。
とってあるご飯を食べようかな、と腰を浮かせた時、どこからかくぐもった笑い声が聞こえてきた。
音の発信源はウルフルンたちの方向。
腰を半分浮かせたまま、僕はそちらを見つめた。




『お悩みのようでぇすねぇ〜?』


【ウルフルン】
「誰だ!」


『私ですよ』




そういうと、ウルフルンの手の中にあった――のカードが、紫色寄りのまばゆい光を放ち始めた。
それのまばゆさに思わず目を瞑った。




【ティオ】
「まぶっ」




短く悲鳴をあげてしまう。
しかしこのまま目を瞑ったままというわけにもいかないので、無理矢理に目を開く。
するとその先には、



「「「ジョーカー!」」」



【ジョーカー】
「はぁいみなさぁん!ごっきげんよぅ」



陽気で軽快な挨拶をするジョーカー。派手な登場だなぁ。



【ジョーカー】
「水臭いなぁ、私も作戦会議にぃ……混ーぜてくださいよぉん」


【ティオ】
「いや、作戦会議ってほどのことしてなかったよ」


【ジョーカー】
「あら、そうなんですかぁ?」



強いて言うならババ抜きしながら愚痴ってただけだ。



【ウルフルン】
「一々うるっせぇぞティオ!」


【ティオ】
「えー」


【ウルフルン】
「どっからどうみても作戦会議だろうが!一応!!」



自分で「一応」強調しちゃったよこの人。



【ジョーカー】
「じゃあ私も混ぜてくれてもいいじゃないですかぁ」


【ウルフルン】
「へっ!お前如きが参加せずとも、答えは出てるぜ!」


【マジョリーナ】
「我々がすべきことは…」




【ウルフルン】
「人間たちの世界をバッドエンドにし!」


【アカオーニ】
「未来と笑顔を奪い!」


【マジョリーナ】
「人間どもから搾り取ったバットエナジーで、ピエーロ様を復活させることだわさぁ!」





ノリノリだなぁ、と思いながら若干冷えたご飯のラップを外す。
今日は焼き魚かぁ。塩焼き美味しそうですモグモグ。



【ジョーカー】
「イッエ〜ス!流石は偉大なるさんかぁーんぶ!」



いやもっとノリノリなのいたよ。楽しそうだなぁ。



【ジョーカー】
「皆さんがいれば、地球は――ノンノンノンッ。宇宙全てをバッドエンドにする日もちかぁ〜い!!」



そう、このバッドエンド王国は世界をバッドエンドにしようと目論む組織だ。
だが、今現在君臨すべき皇帝がいない。そこ、「普通、皇帝じゃなくて王なんじゃね?」とかつっこまない。シビアな問題なのだから。
直属の部下であるジョーカーを筆頭に、三幹部であるウルフルン、アカオーニ、マジョリーナは、ピエーロ様を復活させるべく奔走しつつ世界をバッドエンドにしようとしている(まぁ、今のところジョーカーは参加せずほとんど三幹部の三人がバッドエナジー収拾に奔走してるんだけど)。
僕だって、その奔走の障害となるプリキュアの潜入捜査という活躍をしている。



カチャカチャ



それにしても箸で魚の身をほぐすって難しい。



「「「「…………」」」」



そんな目で見るな。



【ウルフルン】
「……おい、なんだこれ」


【ティオ】
「見てわかんないの?焼き魚」


【ウルフルン】
「わかんねえよ。なんだよこれ。焼き魚じゃねえよ、かわいそうな焼き魚だよ」


【マジョリーナ】
「図工の居残りもここまで酷くないだわさ」


【ジョーカー】
「まったくもぉ……折角綺麗に焼けたのに台無しじゃないですかぁ!」


【ティオ】
「ごめーん」


【ジョーカー】
「激おこプンプン丸ですよ!」




腰に手を当ててプンプン怒るジョーカー。あざとい。しかしどうして彼はそういった仕草が一々似合うんだろう。




【ジョーカー】
「裁縫は得意なのになんでこういうことは下手なんですかぁ〜」


【ティオ】
「僕が聞きたいくらいなんだけどね」


【ジョーカー】
「これ以上は彫刻の居残りより悲惨な惨劇になりそうなのでぇ、お箸貸してくださぁい」


【ティオ】
「なんで?」


【ジョーカー】
「ほぐすので」



そう言ってジョーカーは僕の手からお箸を掠め取り、サクサク骨を身を分けてくれた。
なんであんな爪が長いのにお箸を綺麗に扱えるのだろう……?



【ウルフルン】
「普通じゃね?」


【アカオーニ】
「普通オニ」


【マジョリーナ】
「普通だわさ」


【ジョーカー】
「普通でしょぉ?」


【ティオ】
「ちょ……今度一緒に焼き魚食おうぜ!約束だよ!」



僕は彼らの食事スタイルを検証しなければならないと思った。



 
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