氷る猫の暗躍 | ナノ
05.サッカーとかしてみる
皆の輪の中に戻ると、なおちゃんと入れ違いになった。
すれ違い様に、「じゃあね」と爽やかに言われる。こっちにも爽やかイケメンいたわ。
僕はそれに「ガンバー」と返した。



【星空みゆき】
「いい!!」



突然、みゆきちゃんが叫ぶ。
あかねちゃんとやよいちゃんが驚いたように振り向くと、みゆきちゃんはいつもの可愛らしい笑顔で、



【星空みゆき】
「きーめた!」



ほら、やっぱり僕の予想はあたっていたね。







放課後、「試合を見に来ない?」となおちゃんに誘われていたのをみゆきちゃんに伝えると、「一緒につれていって!」とキラキラ期待だらけの瞳で言われた。
いつかのように「オッケー」と二つ返事を返すと、「やったー!」と喜ばれる。
これだけオーバーリアクションだと逆にこっちが照れるなぁ…とどこか他人事のように思った。



所変わってグラウンド。
そこでは女子サッカーが行われていた。
女子サッカーのはずなのに女子の観客が多い。しかも黄色い声も多い。
やはり周りが認めるイケメンなんだななおちゃん。再確認。
しかしあまりボーっと眺めてばっかだと、感想を聞かれたとき返答に困るのでしっかり観戦しておく。
そこには陸上部員顔負けの俊足のなおちゃんがいました。
何あの足、早すぎじゃね。
自分の目が大きく見開かれるのがわかる。
横のみゆきちゃんも驚いたようで、「はやい!」と驚嘆の声をあげていた。



【黄瀬やよい】
「なおちゃん、一年生のときからレギュラーなんだよ」


【日野あかね】
「相手が誰でもズバッと物言うて、気持ちのええ子やねん」



二人は、まるで自分の自慢でもするかのように、嬉しそうになおちゃんを褒める。
人の事をそうやって褒められるなんて、やっぱり正義のヒーローは違うね。と偏屈のような感想をつい思ってしまった。



【星空みゆき】
「だからティオちゃんとも仲良しなのかもね」


【ティオ】
「、へ?」




いきなり自分の名前が出てきた事に、つい面食らう。
この会話のなかで、まさか自分の名前が出てくるとは露とも思っていなかったのだ。




【ティオ】
「ど、うして?」


【星空みゆき】
「だって!ティオちゃんもコンクールのとき、あの美術部の部長さんにはっきり言ったんでしょ?」


【日野あかね】
「せや!なおも『軽い人だと思ってたけど、筋の通った良い人だった』って言うてたで!」




やよいちゃんも二人の言葉に笑顔で同意する。
わかってない。わかってないな。
だってあれは僕が気に食わなかったから言っただけであって、決してやよいちゃんのためではない。ほぼ自分のためだ。
それなのに、この子たちは「自分たちのために言ってくれた。なんていい人だろう!」と頭にお花でも咲いたかのような考えをしているのだろうか。
馬鹿な子たち。心の中であざ笑って、顔ではいつもの笑顔で「そんなことないよ。当然のことしただけ」と模範解答を返す。
これ以上の会話は駄目だ。自分の中でもう一人、冷静な自分がそう助言してくれる。
僕はなおちゃんの試合を指差し、「ほら!すごい!」と声を上げた。
そのおかげで三人は再び試合に集中してくれる。
…………あれ?どうしてあの会話は、駄目だなんて思ったの?
なおちゃんがゴールにシュートを決めたことを意味する、甲高いホイッスルの音を遠くに感じながら呆然とそう思った。



【星空みゆき】
「かっこいいーっ!!」



みゆきちゃんの歓声に現実に引き戻される。
しまった。またボーっとしてた。
ここ最近、自分でもわかるくらい変だ。自覚してしまうくらいだから、誰かにバレている可能性もある。これじゃいけない。怪しまれたらいけないんだ。
落ち着け、クールになれティオ。お前は『悪党』になるべくして生み出されたはずだろう。
自己暗示のように、自分に言い聞かせる。
実際これは自己暗示なのだろう。しかしそれでも構わない。自分を偽ってでも、あのお方のためになればそれでいいのだ。
僕はいつもの薄っぺらい笑顔を浮かべ、みゆきちゃんたちに向き直った。




【星空みゆき】
「私、四人目のプリキュアは緑川さんがいいと思う!ううん、緑川さんしかいないっ!!」


【日野あかね】
「せやな。うちもそう思う」


【黄瀬やよい】
「うん!なおちゃんなら強いプリキュアになりそう」



満場一致のご様子。
僕も形だけ頷いておく。
ぶっちゃけ、増えられたら困るんだけどなぁ……。




【星空みゆき】
「そして五人目はティオちゃんがなれば万事おっけー!」


【ティオ】
「いや、それはご遠慮させていただこう!」


【星空みゆき】
「えっ、えぇー!?どうして!?」


【ティオ】
「僕はプリキュアのマネージャーになるよ!」


【星空みゆき】
「ま、マネージャー?」


【日野あかね】
「それって、スポーツのマネージャーみたいな?」


【ティオ】
「まあね。影ながらサポートするよー!」


【星空みゆき】
「マネージャー……いい!よろしくねティオちゃん!」


【ティオ】
「まかせたまへー。ほら、試合終わったからチャンスだ、よ!」


【星空みゆき】
「おわっとっとっと!」



みゆきちゃんの背中を押して、「行って来い!」とGOサインを出す。



【日野あかね】
「おっしゃー!突撃やー!」


【星空みゆき】
「おー!」



が、しかし。



今まで観客だった女子生徒らがズザザザ!と大群でなおちゃんの方へ行ってしまった。
皆手にはスポーツ飲料やらタオルやらを携え、こぞってなおちゃんへ差し出す。やっぱイケメンって大変やん。あざと爽やかに対して抱いた感想をそのまま思う。
みゆきちゃんが人垣の一番後ろで頑張っていたが、いつの間にかなおちゃんは帰ってしまっていた。
自分から誘っといて先に帰りよったなあいつ。
なんて恨みがましい感想を抱いていると、ポケットからモーター音とかすかな振動を感じる。携帯がバイブで震えていた。取り出し開けてみると、



『今日は疲れたから帰るわ!試合見に来てくれてありがとう^^今度学校があるとき感想聞かせてね!』



なんて書かれてあった。
『イケメンも大変ですね(笑)』と返すと、『バカ(笑)』と帰ってきた。



 
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