氷る猫の暗躍 | ナノ
05.サッカーとかしてみる
お弁当を片手に僕は友人と中庭を歩く。



【ティオ】
「へー、部活の自主練ねぇ。熱心だなぁ」


【緑川なお】
「当然のことだよ」



美化コンクールの一件以来、緑川なおちゃんと僕は一気に仲良くなった。
なんでも「相手を気にせず真っ直ぐ自分の意見を言い返せた猫乃目さんが気に入ったから仲良くなりたい」とか。
そちらも真っ直ぐに自分の意見伝えますね、と内心苦笑いだが、悪い気はしないので「オッケー」といつもの笑顔で二つ返事を返した。
僕はのらりくらり曲線に生きているのに対し、なおちゃんは真っ直ぐ直線に生きている。傍から見たら対照的な二人だと思われるだろう。僕だってそう思っていた。
正直最初は会話も弾むことなく、この仲も自然消滅するだろうと高をくくっていたが、意外にも会話は面白いくらい弾み、交友関係も急成長。
今ではお互い名前で呼び合う仲である。



【ティオ】
「そいやさ、なおちゃんご飯は?食べずに自主練?」


【緑川なお】
「え?もう食べたよ?」


【ティオ】
「いつ!?」



この子が物を食べている姿を本日一度も確認したことがないんですが!!
驚きつつも、「まだならみゆきちゃんたちの中に誘おうとしたのにー」と唇を尖らせる。すると横から「ごめんごめん」と全く謝罪の意を込めていない軽い物が返された。
これは流されてるなー。と感じる。
それからしばし会話に花を咲かせていたが、目的の人物たちがいる場所に着いたので別れようと一旦会話を切る。それと同時に向こうの会話が僕たちに聞こえてきた。



「ここは、いつも私たちが使ってるの!」


「あなたたち二年でしょ?」


【日野あかね】
「なんですか、それ?そんな、に、二年も三年も、関係ないと違いんます?」


「いいからどきなさいよ!」



どうやら先輩と場所の取り合いをしていたようだ。
ご飯食べるくらい、どこでだって同じだろうに。
呆れたあまり黙っていると、スッとなおちゃんが皆に近寄り、



【緑川なお】
「先輩!」



よく通った声であかねちゃんたちの会話を途切れさせた。
おお……と事の成り行きを見守る事にする。



【緑川なお】
「例え先輩でも、後から来て場所を横取りするのはおかしいと思います」


「横取りだなんて!」



心外!とでも言いたいのだろうか。第三者の僕たちからしたらそうとしか見えないのだが。




【緑川なお】
「中庭は皆の場所です。先輩たちの言う事は、少し筋が通っていないと思います!」




勇気ある行動に対し、みゆきちゃんが目を輝かせる。
多分、次のプリキュアへの勧誘はなおちゃんへと目標が定められたな……。



「あな「アハハハハ、そうだね」



先輩(A)が言い返そうとしたとき、爽やかな声がそれを遮る。
誰だ誰だと体を傾け、先輩たちの影になっている人物を見つける。
うん。誰だお前。



「「入江生徒会長!」」



先輩方がハモる。あんたら仲いいな。
爽やかイケメンが人差し指をたて、あざとくウィンクしながら、



【入江】
「確かに、君の言うとおりだ。ここは学校の皆の場所だもんね」



そう言いながら、件の生徒会長は先輩方に近寄り、「ね?」と念押しするように言う。
その間も爽やかな笑顔をしながらだ。
こいつ、自分が爽やかイケメンだと知っててこんな反応してんだな。そうだろ!っていうくらいにはあざと爽やかだ。
元々人間嫌いな僕は、こんな爽やかな輩に対しても疑念しか抱けない。
なので、あざと爽やかに気を良くして、態度をコロッと変える先輩たちにも「バカだなぁ」としか思えなかった。
先輩たちが表面だけの謝罪をしたことにより、場が丸く収まったところであざと爽やか(すまない。もう名前忘れた)は、「それじゃあね」と軽く手をあげて去っていった。
それに先輩たちは何か声をかけながら付いていく。イケメンって大変だなぁ。
なんて思っていたら、遠くから視線を感じた。
若干顔を傾けてそちらを見れば、青木れいかちゃんがこちらを見て微笑みを浮かべていた。なんだか安心したような顔に、どうやら事の一部始終を見られていたことがわかる。
この子はよく人を見ている子だな……と思うと同時、僕までよく見られているような錯覚に陥って不快感を覚えた。
青木ちゃんには悪いけど……僕は、どうやら彼女のことが苦手らしい。
しかし悟られてはいけないので、僕は青木ちゃんに笑顔で手を振った。向こうもそれに気づいてくれたらしく、清楚な笑顔で返される。
まだ彼女とはそれほど親しくない。だからまだ僕の本質は見透かされていない……が、これ以上距離が近づけばバレてしまう可能性がある。簡単にバレてやる気はないが、もしものときを考えれば近づかないことが最善策だ。まして、彼女がプリキュアになんてなっては厄介だろう。これ以上距離が近づかないことを密かに祈りながら、僕は皆の輪に戻ってった。



 
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