氷る猫の暗躍 | ナノ
04.美化ポスターとか手伝ってみる
現在の時間は昼休み。
僕は先生に呼ばれてすぐにお弁当にありつくことができずにいた。
渡された体操服を、一旦教室に戻って鞄の中に仕舞う。
ようやく体操服が届いた。
これくらい、あの人に頼んだら買うまでもなかったんだけどなぁ……。
会う暇がなかったからしょうがない。
お弁当を掴み、みゆきちゃんとあかねちゃんが待つ屋上へ向かう。
この学校はいろいろ校則がゆるい。屋上を解放しているところなんて、正直言ってあまり無い。
更にいうと、制服の上にパーカーを着ているのに怒らない学校もそんなに無い。というか無い。
転校初日からパーカーを着ていたのだが、どの先生も当たり前の顔で僕を見るし、担任教師すら怒らない。普通に「始めまして、あなたのクラスの担任です」って綺麗な笑顔で挨拶された。
ぶっちゃけ怒られる気満々だったのだが。
この事に誰が一番驚いているのかって?僕だよ!
それにしてもアカオーニはいつ来るんだろう。あの調子だったらバッドエンド王国からこっちに来て何かやらかすつもりだよね?朝から、しかも僕より前に出て行ってまだ姿をみないなんて、もしかしたら違う場所でバッドエナジー収拾してるのかな。それともまだ準備中?
屋上に向かう階段を上りながらつらつらそんなことを考える。
それがいけなかったようで、上から駆け足で下ってくる人間に反応できなかった。



【ティオ】
「わっ」


「きゃあっ!?」



階段を上っている最中だからいけなかった。
こんな足場の危ういところでこけたら相手が大変だ。
僕はこういう足場が悪いところは慣れているから無問題だけど、普通の人間はそうはいかないだろう。
自分の素行が悪いことで目を付けられるのはどうにでもなるけど、相手を傷つけてしまったことによって目を付けられたら面倒だ。そんなことで目立ってしまっては捜査がとっても面倒なことになる。
折角プリキュアとも友好な関係を築けているのにおじゃんになるなんてたまったもんじゃない。
僕は体の各部を無理にひねってぶつかってしまった相手を抱きこむ形で後ろに飛ぶ。
そのまま空中で一回転して抵抗を減らし、踊り場に着地する。
そっと床に相手を下ろし、「大丈夫?」と安否を確認したところで驚き。なんだ、黄瀬ちゃんじゃん。



【黄瀬やよい】
「わ、わ、猫乃目さん!?」


【ティオ】
「ハロハロー」



目を白黒させる黄瀬ちゃんの眼前で手を振る。
混乱しているようで、いまだにオロオロしていた。
こりゃちょっとの間再起不能だな、と判断する。
僕の不注意のせいでもあるし、ちゃんと起動するまで付き合うかと僕も腰を下ろした。
まったく、最近平和続きでたるんでるんだろうな。気配に対応できないなんて、不覚。
自己反省していると、階段の段差に引っかかっているものを発見した。
スケッチブックだ。黄瀬ちゃんのかな?
立ち上がってスケッチブックを拾う。……って、おお。




【ティオ】
「すっごー、黄瀬ちゃん絵上手じゃーん」


【黄瀬やよい】
「え?ああっ!!駄目ぇ!」



さっきまで再起不能だったとは思えぬ俊敏な動きで僕の手からスケッチブックを奪還する黄瀬ちゃん。
勿論からかってすぐに奪われないようにすることもできるけど、黄瀬ちゃんは泣きやすいからね。それに女の子には優しくしなくちゃでしょ。



【ティオ】
「すごいね黄瀬ちゃん!絵うまいじゃーん!ちょっと意外かも。あ、これは失礼かな?めんご」


【黄瀬やよい】
「うぇ、ほ、ほんとに?」


【ティオ】
「なんで嘘つかなきゃいけないのかにゃー?」



僕にできる精一杯の笑顔で受け答えをする。
すると黄瀬ちゃんは、少なからず安心したのか僕にポツポツ話してくれた。



【黄瀬やよい】
「…わ、わたし、こういう絵を描くのが好きなの。子供っぽいよね……」


【ティオ】
「そんなことはないと思うよ?十人十色、十人いれば十通りそれぞれの色があるように、それぞれの趣味だってある。恥じる必要なんてないよ。ただ胸を張っておけばいい」


【黄瀬やよい】
「そう、かな……」


【ティオ】
「うん」



黄瀬ちゃんの頭をポンポンと撫でてあげる。
まあ軽く叩く感じでね。女の子って髪型気にするし、見出しちゃ駄目でしょ。
うわ、黄瀬ちゃんの頭フワッフワ。



【黄瀬やよい】
「猫乃目さんって……なんか、すごいね」


【ティオ】
「ん?」


【黄瀬やよい】
「言うことが大人っぽいっていうか、同年代じゃないみたい」



その言葉に、頭の奥が冷えた感じがする。
調子に乗りすぎたな。これからはもう少しこの子供たちの年代に合わせるように務めなくちゃいけないか。



【ティオ】
「んー、そうかな?それをいうなら青木ちゃんのが大人っぽいと思うんだけどなぁ」


【黄瀬やよい】
「あはは、それもそうだね」


【ティオ】
「それよかさ、他の人に見せたりしないの?それだけ上手なら人目に見せないと勿体無いと思うんだけど」


【黄瀬やよい】
「い、いいの!恥ずかしいし……こ、この事は誰にも言わないでね!お願いだよ猫乃目さん!」



だからそんな、してほしくないんならフラグを漂わせることをしないでほしいんだけど。



僕がその言葉を言う前に黄瀬ちゃんは走り去ってしまった。




 
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