氷る猫の暗躍 | ナノ
03.バレーの試合とか見てみる
【星空みゆき】
「日野さーん!頑張ってー!」


【ティオ】
「ファイッオー!」



僕らの声援に、日野ちゃんが「ニッ」と笑って返した。
短い笛の音が合図となり、試合が始まる。


それからは、絶好調としか言いようがなかった。


つぎつぎと点を決めていく日野ちゃんに、横のみゆきちゃんが大興奮で腕をブンブン振り回していた。痛い、実害が出てますみゆきちゃん。あいだだだ。
悪意のない攻撃を防御しつつ観戦する。



と、気配を感じた。



この気配は常日頃感じているあのわんわんの気配だ。
控え気味に後ろを振り返れば、案の定ウルフルンの姿が。
闇の絵本を開き、黒い絵の具を握りつぶしてバッドエンド空間を発動させる。
勿論僕には効かないのだが、それだと不自然なので効いているふりをしてその場に倒れこむ。
「肉まんが120円とか……絶望だ……」とか適当に呟いておく。
ちょっと上を見上げれば呆れたような顔をしたウルフルンが目に入った。だってしょうがないじゃない、僕のいるところでバッドエンド空間発動させんなし。




【ウルフルン】
「ふん、まあいいか……」



ドシンッと重量感たっぷりに着地するウルフルン。
あれ、そんなに体重あったっけ……?



【ウルフルン】
「人間の絶望した顔ほど愉快なものはない。見ろ……あの絶望の顔を」



ねっころがったまま日野ちゃんを見る。



【ウルフルン】
「努力など無駄なだけなのに、バカなやつらだ」



無駄な努力。とでも言おうか。
ウルフルンらしいなぁ、その台詞。
みゆきちゃんはウルフルンのそんな言葉が頭にきたのか、ムッとした顔で日野ちゃんの前に立ちふさがる。




【星空みゆき】
「無駄なんかじゃない!

目標に向かって頑張ってる日野さんを……わたしの友達を……バカにするなんて、絶対に許さないんだから!!」



「みゆき……!その意気クル!プリキュアに変身するクル!」




鞄に乗っかってる妖精が甲高い声で語りかける。
その語りかけにみゆきちゃんは頷き――




瞬間、光が彼女を包んだ。





【ティオ】
「っ、!」




光がまぶしすぎて、一瞬目を閉じる。
次に出てきたのは、変身した彼女の姿だった。




【ティオ】
「これが……プリキュアか…」




みゆきちゃんの大変身に驚く一方、ウルフルンのほうもすかさずあかんべぇを召喚してきた。
今回はバレーボールの形か。空気読んでるなー。
ねっころがりながら、今度はプリキュアの戦闘を観戦する。
最初は逃げまくりだったが、吹き飛ばされた際に校舎に着地し、そこから勢いのついたキックを繰り広げてきた。
巨体のあかんべぇが吹き飛ばされる。




【ティオ】
「な……」




ありえない。あの華奢な体のどこにそんな力が?
変身する前まで普通の少女だったのに……。
……メモっとくか。スマホで。




「ハッピーシャワーで浄化するクルー!」


【星空みゆき】
「うん!……ってどうするんだっけ」


「スマイルパクトクルー!!」


【星空みゆき】
「そうでした!」




必殺技の仕方を忘れるあたり、プリキュアになって日が浅いようですねっと。




【星空みゆき】
「うぅ〜……!気合だ気合ー!!気合だー!!」




みゆきちゃんが顔を真っ赤にさせながらなにやら踏ん張ると、腰についているキュアパクトなるものが光を帯び始めた。
あれって重要アイテムっぽいな……でも日ごろから肌身離さず持ち歩いてるっぽいから奪取は無理かな?
それにしても必殺技って気合貯めなきゃ出せないのか……。
みゆきちゃんは気合を貯め終わったあと、手でハートを描いた後、手をハートの形に組んで光波を放った。
これがプリキュアの必殺技かぁ。写メしとこう。
あっ、ちゃんと設定で音消してるんでバレてないよ。




【ティオ】
「って、あら……?」


【星空みゆき】
「は、外しちゃった……」




必殺技って外れるもんすか。




【星空みゆき】
「つ、疲れたー……」




しかも必殺技ってかなり疲れるらしい。
へたりこむみゆきちゃんに「頑張るクル!もう一回クル!!」とエールを送る妖精。追い討ちに見えてくる。
そんな追い討ちにもめげず、「しょうがないなぁ」ともう一回必殺技を放つが……不発。
一回の変身につき必殺技一回らしい。不便だ。
なんてうろたえていると、あかんべぇにつかまってしまった。あのまま握力で握りつぶされる、かな?泣き出すのも時間の問題だな。
ウルフルンが宙に浮きながらみゆきちゃんになにやら話しかけているが、多分僕と一緒の感想だろうな。
現に、笑顔だけどあれ絶対やせ我慢だし、目じりに涙浮いてるし。哀れだなぁ。あれ、一人じゃ絶対抜け出せないでしょ。かわいそうに。
自分でも驚くほど無感動に事を眺めている。
まぁ、僕にとってみゆきちゃんってその程度なんだろうね。ていうか、あって一日しか経ってないし、当たり前なのかな?




【日野あかね】
「な、なんなんこれ……!!」




あ、日野ちゃん気がついた。
こちらも現状に面白いくらいうろたえている。
そりゃいつの間にかまわりがこんなことになってたらびっくりするよねー。
「わけわからへん……」と呟いている日野ちゃんの後ろに怖い顔のウルフルンが回りこんだ。
そして日野ちゃんを指差して、




【ウルフルン】
「そういや、さっきこいつのこと『友達』とか言ってたなぁ」


【日野あかね】
「え……」


【ウルフルン】
「くだらん。友達だの一生懸命だの、バッドエンドの世界にそんなもの必要ないんだよ」


【ティオ】
「…………」




そうだね。まったくだウルフルン。
結局友達と言っても他人。『家族』以外、信用なるものなんて――





【星空みゆき】
「友達はくだらなくなんかないよ!」





――ん?





【星空みゆき】
「楽しいとき、嬉しいとき、友達がいれば二倍も三倍もハッピーになれるし、悲しいとき辛いときはそばにいてくれる……!

とっても大切なものなの!!」




…………くだらない、かな…。
そんなの、それこそ性善説だね……!




【ウルフルン】
「つまりお前は、友達がいないとなにもできない弱虫野郎ってことだな。……止めだああんべぇ!」




ウルフルンの言葉を合図に、あかんべぇがみゆきちゃんを握りつぶそうと手に力をこめる。
そんなとき、





テンッ





ポール特有の軽やかな音が聞こえた。
日野ちゃんがボールにアタックして、それがあかんべぇに当たった音だ。
なんのつもりだろう、あの子。




【日野あかね】
「うちの友達に……なにしてくれてんねん!」




そういって、自分の何倍もあるあかんべぇの足をつかみ、持ち上げようとする。
……うーん、バカ…か?あの子?大丈夫か?




【日野あかね】
「星空さんと猫乃目さんは、うちを励まして応援してくれたんや……!次は、うちが二人を助ける番やあぁ!!」


【ウルフルン】
「そんな弱っちいの助けてなんになる」


【日野あかね】
「弱っちいやと!?うちの大切なもんバカにするんは、絶対許さへんでぇー!!」




人間が、あかんべぇに勝てるわけないってのに……




【日野あかね】
「関係……あるかあ――い!!」




光が、振りかかった。




その衝撃であかんべぇまで吹き飛ばされ、つい手の拘束を緩めてしまい、みゆきちゃんを解放してしまう。
これは、みゆきちゃんが変身したときと同じ……!いや色違うけど。




【ティオ】
「こんな早い段階で、プリキュアが二人現れてしまった……」




まだ二日くらいしか経ってないってのに……。
日野ちゃんが悶えるのと一緒に、僕も頭を抱える。
そうこうしているとウルフルンがあかんべぇに指示を出し、あかんべぇが天高く飛び上がり二人の上に振って行った。
こりゃあひとたまりも…………な、い……?




【ティオ】
「うっわ……」




嘘だと言ってよバーニィ……




受け止めるってあり……?





【ティオ】
「そしてそのままぶん回して投げるのもありー……?」




ぶん投げられたあかんべぇを呆れながら見守る。
すると、日野ちゃんのスマイルパクトが光りだした。
ついでに「あれ、力吸い取られてんでぇ……?」という呟きも聞こえる。
必殺技を使うとき力を吸い取られるのか。やっぱ不便に見える。
日野ちゃんが気合を入れ終わると、なにやら宙に火の玉が浮かび上がった。
うん、まさかだけど、それを




【日野あかね】
「サニー・ファイアー!!」




打つんだねぇー




今度は見事あかんべぇに直撃し、浄化されデコルになってしまった。
あらら、負けちゃったね。




【ティオ】
「ね、ウルフルン」


【ウルフルン】
「ちっ、うるせぇ。プリキュアめ……次々と現れやがって……。次こそ倒す!」




そう行って帰って行ってしまった。
ウルフルン。それ負けフラグや。




 
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