どこともしれない錆びれた屋敷。
壁にはくもの巣が無数に作られ、ほこりはつもり、庭には草がすき放題に伸ばされている。
人の気配などまるでない不気味な屋敷。
その更に奥にある地下室。
光の届かない場所に、一つの玉座が飾られていた。
あまり飾り気のないシンプルなものだったが、あふれ出る気品さは確かにあった。
たとえほこりをかぶり汚れていても。
たとえ干からびた死体が座っていても。
そう、その玉座には干からびた死体が座っていた。
左側の肘置きにもたれかかるようにして、まるで眠っているかのような。
誰の目から見ても死んでいる事が一目瞭然の死体が…
そんな死体が、ピクリと動いた。
あまり褒められた表現ではないが、まるで痙攣するような一瞬の動き。
その動きが合図。
左側にもたれかかっていた死体はのそりと体を起こした。
乾いた皮膚がパラパラと零れ落ち、人の形を徐々に損なわせる。
しかし、それに構うことなく、死体は口を動かした。
「………………腹が減った」
ただそれだけ呟くと、死体は体をきしませながら立ち上がり、フラフラ散歩ほど前進したかと思うと暗闇の中へ空気のようにスッと消えていった――