奈々の指導を受けながら出来たガトーショコラの生地を混ぜながら、リーナは焦っていた。
フゥ太の一件から、ビアンキの調理を阻止することができずにいるのだ。
リーナはビアンキに悟られぬよう彼女の様子をうかがっていたが、ビアンキは調理をしているにも関わらず一瞬の隙もリーナに与えてくれなかったのだ。
【リーナ】
(いや、本業が暗殺業、しかも料理を主体とした毒殺をしているのだからむしろ料理中こそ彼女の本領発揮というわけなのか…?)
なんて現実逃避を始めるくらい隙が無いのだ。
奈々に促されるまま、できた生地をバターを薄く塗った型に流していく。
「あーあ、どうしよっかなー」と窓枠に頬杖をしたところで、
【ビアンキ】
「あっ、いけない。リボーンにビターとスイートどっちがいいか聞くの忘れちゃってたわ」
しめた!!
リーナは窓外の景色からビアンキへ視線を移動し、颯爽と彼女に近づいた。
人のいい笑みを携えながら。
【リーナ】
「ならば聞いていらしてはいかがか?」
【ビアンキ】
「あら、でもクラッカーが…」
【リーナ】
「それこそ京子とハルに任せればよろしい。彼女たちはたった一時間ほどだが、あなたの生徒なのです。信頼してやってください」
リーナは二人に視線をずらし、彼女たちが大きく頷くのを確認する。
【ビアンキ】
「…そうね。じゃあちょっとリボーンに聞いてくるわ」
ビアンキはどこか満足そうに、「ブショァア…」とグロテスクな音を発するボールを持って二階へ上がっていった。
なんかいい感じな話になったところで、リーナはにやりと口角を上げる。
そして突然、
【リーナ】
「はっ!!あそこにUFOとかいうUMAがっっ!!」
【京子】
「えぇ!?」
【ハル】
「はひ!?どこですかー!?」
ビシリと窓外を指さすと、二人は面白いくらいにUFOを探そうを夢中になった。
二人の純粋すぎる行動に、どこか感動に似た気持ちを感じながらリーナはオーブンで焼かれているクラッカーをすべて処理し、市販に売ってある「あとは焼くだけ!」とお手頃感あふれるパッケージの書かれた「生地クラッカー」をオーブンに突っ込む。
ちなみにこのクラッカー、リーナの一部をコウモリに変化させ、市販のスーパーからコウモリを使い持って来たものだ。無論、代金は払っていない。
【リーナ】
「すまん、見間違えた」
【京子】
「なんだ、そうなんだー」
【ハル】
「びっくりしましたー」
【リーナ】
「ははは、すまんすまん」
リーナは二人に謝りながら、体で隠したオーブンのタイマーを後ろ手で操作する。
なんてことをしていると、
『逃がすものか!!』
『うおおおおおお』
『若きボンゴレ!足すってます!!』
そんな三者三様の叫び声が聞こえてきた。
外、そして上からの声。
「屋根の上かなぁ…」とぼんやり考え、
【リーナ】
「最近の鳥は元気よな…」
とつぶやいた。
純粋な二人は「鳥なんだー」と変に納得しながらチョコフォンデュを混ぜていた。