Vampire Tale | ナノ





そうして大分場の空気が和んだところで、






【ビアンキ】
「さ!バレンタインの準備するわよ」


【京子&ハル】
「「はーいっ」」


【ビアンキ】
「ここからは男子禁制よ。フゥ太は出て行きなさい」






ビアンキの言葉にフゥ太は出て行こうとドアに向き直る。
そこでフゥ太は少しだけ振り返り、心配そうにリーナを見つめた。
その瞳には「ビアンキ姉の料理食べたら……僕、死ぬよ?」という訴えが見えた。
リーナはフゥ太の耳に顔を近づけ、小さな声で、





【リーナ】
(ひとまず、我も出来る限りのフォローをしよう。そっちも、可能ならばビアンキの気をひきつけるなどして邪魔をするよう頼むぞ)


【フゥ太】
(わかった!)





そうボソボソと耳打ちをした。
不安を少なからず払拭したフゥ太を満足げに見送り、女子勢へ向き直る。





【京子】
「どうしたの?」


【リーナ】
「なに、どうやら我が料理下手に見えたらしくてな、心配して耳打ちしてくれたのだ。しかし不安がることなかれ、我はこう見えて料理は人並みにできる」






ほぼ人生の大半を一人で過ごしてきたリーナだ。家事だってそれなりに身に付いている。





【リーナ】
「しかし、菓子類は一回も作ったことがなくてな……すまぬが、ご教授願う」


【京子】
「うん!一緒に頑張ろうね」


【ハル】
「ハルもお手伝いしますよ!」


【リーナ】
「なんと、頼もしいぞ」





そうして、チョコ製作が開始された。



【奈々】
「はいっじゃあこっちのチョコを刻んでね」


【リーナ】
「すでに…チョコが仕上がっている…だと!?」



調理用の大きなチョコの塊が乗ったまな板に、リーナは包丁片手に驚きの形相を浮かべた。



【奈々】
「このチョコを細かく刻んで、湯銭で溶かすのよ」


【リーナ】
「なるほど…」



奈々の言葉に、「おそらくすでに仕上がったチョコを更に加工するのが手作りというものなのだろうな…」と九割がた正解の予想を立てるリーナ。
自分の立てた予想に勝手に納得し、黙々とチョコの塊を刻んでいく。



【ビアンキ】
「リーナは一人の人にチョコを作るんでしょう?」


【リーナ】
「そうだな……できれば全員作りたいんだが、どうも急だし……そうだな。とりあえず一人だ」


【京子】
「ほかにも作る人がいるの?」


【リーナ】
「我は風紀委員会に所属しておる。とりあえず今日は雲雀にチョコを作る予定なのだ。他の者たちにも、挨拶として作りたい」


【ハル】
「はひ、律儀なんですね〜」


【リーナ】
「礼儀とは、いつの時代でも大事なものだからな」





チョコを小さく刻みながら会話を弾ませる。





【京子】
「じゃあ、リーナちゃんは別に作ったほうがいいかもね」


【リーナ】
「別に?」


【ハル】
「ええ、私たちはチョコフォンデュを作る予定なんです」


【リーナ】
「なるほど、液体なら持ち運びも不便だしなぁ……」


【奈々】
「じゃあリーナちゃんは私と一緒に作る?」


【リーナ】
「!
(しかしそれではビアンキの邪魔をすることは難しくなるな……フゥ太と沢田綱吉の命が危ない……。


ま、なんとかなるかな)



うむ、よろしくお願いします」


【奈々】
「は〜い♪」





そうしてビアンキ班(チョコフォンデュ)と、リーナ班(チョコは固形)が出来、別々に作業することとなった。





【奈々】
「そうねー。大人数なら、トリュフでいいんじゃないかしら」


【リーナ】
「トリュフか……」


【奈々】
「トリュフなら短時間で何個も作れるから、袋詰めにしたら立派なバレンタインチョコよ♪」


【リーナ】
「うむ……名案だ!風紀委員の者どもにはそれをやろう!」


【奈々】
「あと、本命にはガトーショコラを作りましょうか」


【リーナ】
「それはよい考えですな!あれは美味でありますし」





作るものも決まり、早速作業へ取り掛かろうとしたところでツナが帰宅。





【奈々】
「ちょっとお出迎えしてくるわね」


【リーナ】
「はい」





リーナは奈々を見送ると、黙々とチョコを刻みはじめた。






【リーナ】
(チョコフォンデュにはクラッカーを付けると言っておったな……。クラッカーはビアンキが作ることになっておる……ふむ、なるほどな…しかし、ああも真剣に取り組まれては隙をつくなど難しい。一瞬でいい、あのそばを離れてはくれぬかな……)






チョコを刻みながらビアンキを盗みみたリーナ。
なんて思っていると、まるで彼女の念が通じたようにビアンキがチョコのそばを離れた。どうやらツナのいる玄関へと様子を見に向かうらしい。






【リーナ】
(しめた!)






リーナは文字通り、目にも止まらぬすばやさでビアンキが作っていたチョコを流しに捨て、自分が湯銭にかけていたチョコと摺りかえる。
幸いビアンキのチョコも湯銭にかけ溶かす最中だったので違和感はないだろう。
一連の流れを一瞬でやってのける。
そしてまた、新しいチョコを素早く、かつ小さく刻み湯銭へかける。
自分の分をビアンキのと摺りかえてしまったため、自分の分が無くなったのだ。
自分が湯銭にかけているのをハルも京子も目撃している。帰ってきてそれがなかったらどこからどうみても違和感があるだろう。

なんとか一通りやってのけ、とりあえず一息つく。






【奈々】
「リーナちゃん、調子はどう?」


【リーナ】
「はい、この通り溶けきりました」


【奈々】
「あら、早いのね。一生懸命ちいさく刻んだ甲斐があったのかしら」


【リーナ】
「きっとそうだと思いますよ」


【奈々】
「じゃあ半分に分けましょう。トリュフとガトーショコラの分ね」


【リーナ】
「了解です」





湯銭にかけ、溶けたチョコを半分に分ける。






【奈々】
「それじゃあ、トリュフは私が手伝うわね」


【リーナ】
「いえ、ですが……」


【奈々】
「いいのよ、いくらトリュフが簡単だろうとガトーショコラと一緒に作るなんて難しいもの!手伝わせてっ」





ニッコリと笑顔で言われると断れない。というかこんな人の良い笑顔を見せられて断れるなんて人間としてどうかと思う。
吸血鬼であるが、どうやらリーナも例外ではないらしい。






【リーナ】
「では、お言葉に甘えて」


【奈々】
「ええっ」






一通りガトーショコラのレシピを聞き、早速取り掛かる。
湯銭で溶かしたチョコに、生クリームを加え混ぜるリーナ。
リーナの様子に顔を綻ばせたあと、生クリームに火をかける奈々。
温度に気を付けながらリーナがチョコを混ぜていると、ふとする異臭。






【リーナ】
(まさかっ……!!)






嫌な予感を感じながら、リーナがこそっと後ろを振り返ると。






【リーナ】
「ブッッ」


【奈々】
「リーナちゃん!?どうしたの?」






ブショアアァァ……という音と共に、チョコが元のポイズンクッキングと化していた。
予想外の出来事に思わず吹き出してしまった。






【リーナ】
(なんと……!少し目を離した隙に……!!)






しっかりと調理を進めつつ、ちゃんと驚くリーナ。実に器用だ。






【リーナ】
(次の対策を立てねばなぁ……ん?)






室温にしたバターを練っていると、ドアの隙間からこちらを伺うフゥ太とツナを発見。
それに、「ははーん」と行動の意図を察した。






【リーナ】
(なるほど、フゥ太のランキングでビアンキへの対策を立てるのか……。得策だな)






成功の兆しに笑みを浮かべる。
しかしその笑みは一般人からしたら酷く悪どいものなので、リーナの笑みを見たツナは「こええええ!」と震えていた。





【リーナ】
(これでなんとか……ん…?)





一安心し、胸をなでおろしたリーナの視界にフワリと浮かぶものが入った。
リーナの脳内の知識が正しければ、それは決して飛ぶなんてことができる物体ではなかった。
目の前、バターを練っているボールがフワリと浮かんでいたのだ。
予想外の出来事に「きょとん」としていると、次々と無機物がブワリと宙に浮かんでいく。
周りを見渡してみると、キッチンの内部は無重力空間になったかのようにいろんな無機物が宙を浮かんでいる。
とりあえずこぼれてしまっては困るものを、リーナは手あたり次第手元にかき集める。



【京子】
「キャ!」


【ハル】
「ハヒー!!」


【京子】
「先生!ポルターガイストです!!」



自身の周りの物が宙を舞う様子に、女子二人は悲鳴を上げる。
助けを求められたビアンキは、鋭く廊下へ繋がる扉を睨み付け、



【ビアンキ】
「そこにいるのは誰!!?」


【フゥ太】
「!」







【リーナ】
「殴るのは!殴るのはよしてやってくれぬか!!」


【フゥ太】
「リーナ姉ぇえ〜〜っっ!!」



子供相手にも容赦一つないビアンキに、リーナはフゥ太を背中に隠しながら「こいつ…できる…!」と戦慄した。
こうして、フゥ太のランキング能力を使うという案はあっけなく失敗に終わった。




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