Vampire Tale | ナノ





【フゥ太】
「じゃ、行ってくるね!」


【リーナ】
「うむ、何かあったら呼ぶのだぞ」


【フゥ太】
「はーい!」



元気に学校へ忍びこむフゥ太を、手を振りながら見送るリーナ。
リーナが学校へ入らないのは、今日は『風邪』という大義名分の下学校を休んでいるからだ。
そこを私服姿で教師に見つかれば面倒なことになる。また学校に入るのも忍びない。
今こうして学校付近にいるのも危ない状況なのだ。
「はやく来ないかなー」と空を見上げボーっとフゥ太の帰りを待つ。
のもつかの間、急な殺気を背後に感じ、勢いよく振り返るリーナ。
そこには、




【リーナ】
「……雲雀」


【雲雀】
「…………」




風紀委員長にしてリーナの上司、雲雀恭弥がそこに立っていた。
殺気を振りまいて。
教師よりもやっかいな人物に出会ってしまった、とリーナは苦い顔のまま無理に笑みを作る。
しかし、相手が見知った人物であることに変わりはない。たとえ殺気を出していようとだ。
リーナは臨戦体勢から力を抜いた体勢になり、腰に手を当て語りかけた。



【リーナ】
「今は授業の時間ではないのか?」


【雲雀】
「……リーナこそ、今は学校にいるべき時間だよね?何してるのさ……?」


【リーナ】
「いやまぁ、なんだ。我にも色々事情があってだな?」



雲雀は「聞く耳もたず」と言った風に顔をグラウンドへ向け、



【雲雀】
「さっきの男の子は誰?」



と、聞いてきた。
リーナは困り顔で、



【リーナ】
「……貴様、いったいいつから……?」


【雲雀】
「リーナと男の子が手をつなぎながらそこの曲がり角を曲がってきたときから見ていたよ」


【リーナ】
「ほぼ最初ではないか!」



この我ともあろう者が、何故今まで気づかなんだ……。
リーナは思わず頭を抱えた。
しかし、そんなリーナの様子など気にもしないで、雲雀は言葉を続けた。



【雲雀】
「いったいどこの馬の骨だい?」


【リーナ】
「いやどちらかと言えば猿寄りの骨だろ」


【雲雀】
「学校をサボってデート、ね……。しかも、年下趣味……」


【リーナ】
「まぁ、かわいいとは思った」


【雲雀】
「咬ミ殺ス……」


【リーナ】
「えっ、なにこれ。我選択ミスった?」



どこかズレた会話の末、ついにトンファーを持ち出した雲雀に、リーナは「やべえ!」と言った表情で一歩後ずさった。
殴られてもおかしくない雰囲気の中、しかしリーナは逃げることも迎え撃つこともできずにいた。
逃げてはフゥ太とはぐれてしまうし、迎え撃てば騒ぎになり教師や生徒に見つかるという、更にやっかいな状況へと発展してしまうことがわかっていたからだ。
だが目の前の相手は、逃げるか迎え撃たなければどうしようもない相手であり、そしてそんな状態であった。
説得など無意味だろう。
何故こうまで怒られているのか、リーナには皆目見当もつかなかったが。



【リーナ】
「まぁまぁ雲雀。落ち着け。話し合えばわかる」


【雲雀】
「君と今話すことなんてないよ」


【リーナ】
「どうしてそこで諦めるんだそこで!もうちょっと頑張ってみろ!やれる貴様なら絶対やれる!話し合えばわかるはずなんだ!」



炎の妖精よろしくの調子で説得を試みるも、構えられたトンファーに「あ、だめだこれ逃げよう」と即座に決定を改めた。
しかしフゥ太がいないこの現状、どうしても逃げる事はできない。



【リーナ】
(仕方ない……我一人の問題で片付けば、安いものだと諦めるか)



諦め、潔く拳を握るリーナ。
すると、いつぞやの騒々しい足音が聞こえてきた。



【フゥ太】
「リーナ姉!助けてー!!」



リーナはこのとき、天使の声と見紛うたという。



【リーナ】
「フゥ太!」


【フゥ太】
「うわリーナ姉早っ」


【リーナ】
「状況が悪化した。すぐにでも逃げるぞ」



一瞬でフゥ太の前まで移動したリーナを、男たちは「ジャパニーズNINJA!?」と驚きの声を上げ、グラウンドから騒ぎを聞いた野次馬根性たくましい体育中の男子は「瞬歩……」と呟いていた。
しかし、そんなことは本人にはどうでもいいらしく、フゥ太を抱えるとそのまま地を力強く踏み込み飛び上がった。
身軽に電柱の天辺へ降り立ち、そのまま近くの電柱に飛び移りながら移動する。
グラウンドから見ていた男子は「見え!!」「見えた!!」と盛り、フゥ太を追っていた男たちは「oh……」「NINJAは生きていたのか……」と呆然としていた。
が、男たちはふと我に返り、



「お、追いかけるぞ!!」


「しかしリーダー!相手はNINJAです!」


「くそっ、フゥ太はNINJAを味方につけていたのかっ!!」



外国人らしい勘違いをしながら、すでに見えなくなった二人を追いかけ奔走しだした。



【雲雀】
「…………」



ポツン、と一人道路の真ん中、トンファーを構えていた雲雀は寂しく立ち尽くしていた。
トンファーを下ろしたかと思うと、ふと横を――グラウンドのほうを目だけで見た。



【雲雀】
「(チラ)」


【男子たち】
「「(゚∀゚;)ビクッ」」


【雲雀】
「……見たでしょ?リーナのスカートの中」


【男子1】
「いや……あの、その……」


【男子2】
「俺たち見たくて見たわけじゃ……」


【雲雀】
「咬み殺す」


【男子たち】
「「ひっ」」






ひぎゃあああああぁぁぁぁ……






巻き込まれた男子たちの悲鳴が、グラウンドにこだました……――





 




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -