Vampire Tale | ナノ





……さて、いつもの調子に戻ってみよう。
リーナは曲がり角で人にぶつかってしまった。完全に不注意だった。
リーナ自身は微動だにしていないが、ぶつかった相手は尻餅をついてしまった。



【リーナ】
「すまん。大丈夫か」


「いてて……う、うん!大丈夫だよ」



ぶつかってしまったのは小さい男の子。目安で十歳程に見える、縦しま模様のマフラーが特徴の可愛らしい男の子だ。



【リーナ】
「すまなんだ」


「気にしないで!……あっ」



男の子に手を差し伸べ立ち上がらせていると、遠くから騒々しい足音と怒号が聞こえてきた。
焦った様子の男の子にリーナがいぶかしんだ表情をしていると、



「さ、さいなら!」



急に、まるで逃げるように走り出す男の子。
リーナは手を伸ばし、



【リーナ】
「まてい」


「うわっ!」




男の子の首根っこを「むんず」と効果音が付きそうな具合に掴み、そのまま持ち上げてしまった。
リーナ的には大分ソフトな引き止め方だった。
が、しかし宙にぶら下げられた男の子からしてみればたまったもんではない。



「わ、わ、は、はなしてーっ」


【リーナ】
「いやなに、面白そうなことをしていると思ってな」



案の定空中でじたばたと暴れる男の子。
その様子を「いとをかし」と思いながら見ていると、そうこうしている間に騒々しい足音は着々と近づいてきて、



「いたぞ!」


「ランキングフゥ太だ!」


「おい、なんだあの女?」


「まとめて取り押さえろ!」


【リーナ】
「なんぞ?」


「ああ……」



当たり前というかなんというか、余裕をぶっこいている間に柄の悪い男たちに取り囲まれてしまった。
男の子が悲壮感たっぷりな表情を浮かべるのに対し、リーナは鼻で「ふっ」と笑うと、



【リーナ】
「朝から騒々しいな。好感が持てる」



まったく焦った様子を見せず、むしろ余裕たっぷりな表情で笑っていた。
フゥ太ち呼ばれた男の子はリーナと対照的に、ひどく焦った様子でよりジタバタと暴れだした。
一向に放される気配はないが。



「お姉さん!早く僕を放して!巻き込まれちゃうよ!」


【リーナ】
「いやもう遅いだろ」



自分から種をまいておいてすごい大きな態度だった。
その様子を見た三人の男の中から、一人が凶悪な笑みを浮かべながら一歩前に出て、



「お嬢さん、その少年をこちらに渡していただけますかな」



凶悪な表情とはうってかわって紳士的な態度で交渉に出ていた。
リーナはなおも余裕の表情で口角を上げると、「ふふん」と笑い、



【リーナ】
「断る。……と、言ったら?」



決裂の言葉を口から吐いた。
言葉を聞いた男の子は「信じられない」と言った表情で、まるで確認でもするかのように「お姉さん……?」と呟いていた。なんとも、年齢にそぐわない痛ましい表情だった。



「……なら、仕方ありませんね」



男は凶悪な表情のまま、自分の懐をまさぐり、



ジャキッ



黒く光る、武骨な銃を取り出し、リーナに照準を定め――



パンパンッ



乾いた発砲音が数回響いた。
リーナの体に、赤い穴が開く。
パッ、と、男の子の首根っこを掴んでいた方の手が離される。
男の子が尻餅をつくのとほぼ同時に、ガクリと膝をつく。
その口からはポタポタと赤い液体が溢れていた。



「お姉さん!!」



そのまま倒れたリーナに男の子がかけよる。
体を揺さぶると、手に血がついたようで、自分の手のひらを呆然に近い状態で見つめていた。
その目には、衝撃と、驚きと、悲しみがない交ぜになっている。
涙目になって、心からリーナを案じているようだった。



「悪く思わないでください」



そういって男は鉄砲を懐にしまった。
男の子の近くにいた男が、まだ衝撃を受けた様子の男の子を両脇から持ち上げる。



「連れて行け」


「「ハッ」」



「お姉さん……」と小さく呟く男の子の様子になんて構わず、連れて行こうとする男たち。
そこに、




「待てい」




女性の声がした。
男たちは、顔に幾分かの驚きを混ぜながら振り返る。
視線の先には、



【リーナ】
「まったく、いきなり飛び道具とは無粋なやつらだな」



涼しい顔で髪をかきあげる、リーナが立っていた。



「な……!」



男たちは警戒心を丸出しにした顔で……、まるで化け物を見るような目でまた銃を取ろうとする。
ふふん、と笑い、



【リーナ】
「小童が」



リーナは髪をかきあげた時に頭上へもっていっていた手を開いてみせた。
そこには銃弾が三つ。
その手を再び閉じたかと思うと、左から右へ横なぎに腕を振るった。
とたん、



「グッ!」


「うあっ!?」


「ぎゃっ!!」



三人の男がいっせいに右手をかばい始めた。
銃を取り落とし、冷や汗をにじませる。



【リーナ】
「童相手になんてものを向けるのだ貴様ら。不愉快だ。そこのわっぱを残して早々に去るがよい」



男たちは「クソッ!」と吐き捨てるをそそくさを逃げかえってしまった。
まるでどころじゃなく、ただの負け犬であった。



【リーナ】
「おい、無事か?」


「う…うん」


【リーナ】
「ならばよいのだ。……それにしても貴様、追われている風であったが何をした?」


「それは……」


【リーナ】
「言わねばこうだよ」



リーナはさっきのお兄さんの忘れ物の銃を拾うと、手で粉々に砕いた。
手の中で暴発していたが、リーナは全くものともしていない。
男の子、かわいそうに若干青ざめていた。
完全に脅しです。本当にありがとうございます。
その脅しにたまらず男の子は答える。





「ぼ、僕はフゥ太。ランキングフゥ太と呼ばれてます」





 




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