Vampire Tale | ナノ





さて、吸血鬼の彼女だが、もちろん戸籍はない。
保険証すらない。
ならばどうして転入できたか?

それは他力本願というものである。

彼女は昨夜、昔なじみのもとまで飛んでいたのだ(文字通り)。
要件はこうだ。


【リーナ】
「並盛中学校へ転入したいのだが、相応の物を用意してほしい」


「いいよ」



はい、これで終わり。
詳しい事は割合するが、彼女の昔なじみは、『つくる』ことに特化した人物だ。
保険証の偽造やら国籍の偽造やら、お手の物な危険人物だったりする。
さて、そうして過去も適当につくられたリーナは、いろんな経緯で帰国子女として転入することができた。
そして現在に至る。



【先生】
「リーナさんの席は…一番後ろの窓際だ」

【リーナ】
「はい」



席を指定され、サッとそこへ向かう。
途中、列の間から通り過ぎる直前、足が伸びてきたが「なんだこれは」と疑問に思いながら蹴飛ばしていった。
後ろから「いってぇ……!」と悶える声が聞こえる。
リーナは「当たり前だ」と思う。なぜなら弁慶の泣き所と名高いスネを狙ったのだから。なんというか、えげつない。
しかしそのことに教師は触れず、リーナが席に座るのを見届けると言葉を続けた。



【先生】
「えー、そうだな。一時間目のHRは質問タイムにしよう」



担任の教師はやる気のなさそうにつげ、教室をあとにした。
しん、と静まり返る教室内。
まるで教師が遠くへ行くのを確認しているようにさえ思う。
三十秒ほど経った後、一人の女子がおもむろに立ち上がりこちらへと近づいてきた。
クスクスとクラスのあちこちから含み笑いが聞こえてくる。



「リーナさん……だっけ?」


【リーナ】
「そうだが、何用か?」


「ほら、先生が質問タイムって言ったじゃない。だーかーら、質問しにきたの」


【リーナ】
「ん……そういえば教官殿が言っておったな。よいぞ、なんでも聞くがよい。答えられる範囲で答えよう」



しかしそんなことリーナには関係ない。
いつもの大柄な態度で迎える。
その様子に女子はククッと笑い、



「じゃあ質問するけど、リーナさんってその口調どこから?まさか親からー?」


【リーナ】
「これは日本の知り合いに教えてもらった。顔に傷があったのが印象的だったな」



えっ、と女子の顔が若干固まる。
クラスの含み笑いもピタッと一瞬止まる。
リーナは、「ん?」と余裕の表情で「ほら早く次の質問しろよ」と言わんばかりの挑発の視線を送っていた。
女子は「え、えーっと」と少量の冷や汗を頬にたらしながら、固まった笑顔のまま質問を続けた。



「じゃ、じゃあ親は?」


【リーナ】
「いないな」



しめた、女子は思った。
先ほどは思わぬ返答に面食らったが、いい弱味が早くも出てきた。
そこに畳みかける算段を立てる。


お気づきだろうが、これは『いじめ』だ。


転校生はいつどの場所でもちやほやされる存在ではない。
時にはこうしてクラスのいじめの標的にされることもある。
しかも、すでにクラス内でのいじめが行われている場合は特に――……
こんなクラスに転校してきた人間は、誰しも「運が悪い」と思うだろう。



だが、しかし。このクラスにおいて、この場において、それでも運が悪いのは、決してリーナの方ではなかった。



【リーナ】
「両親ともいないのでな。最初から。

 物心ついたときからそばに両親はおらぬ。顔を見たことなどないし、名前すらしらんな。私の現在の名前は別の人間に一からつけてもらったものゆえファミリーネームも同じではないのでな」



そんな衝撃的事実を笑い話のように語るリーナ。
絶句する女子。
その女子と同じく絶句するクラスメイト……全員。
なおも挑発的な視線を向けるリーナ。



【リーナ】
「ほかに聞きたい事はあるか?よいぞ、聞いてくるがよい」



腕を胸の前で組み、ついでに足も組んで完璧に余裕の態度をする。
そんなリーナに穴が開くほど見つめられる女子。
つい、畏縮してしまう。
女子のその様子に「ふふん」と上機嫌に笑い、



【リーナ】
「いじめ、であろ?」



これは。
そういいつつ、ゆっくりと席を立つ。




【リーナ】
「人は集団で行動するとき、一つの『敵』を確立する」




女子を押しのけ、スタスタと教壇へ向かう。
その足取りは、しっかりしたものだった。




【リーナ】
「確立された『敵』にむけ、人々は一丸となって打倒すべく行動する。それはとても見事なものだ。

しかし、その『敵』が打倒されたとき、人々は相手を失いどうすればわからなくなる。



そのとき、人々は見つけるのだ。己たちの中から『敵』を。



つまり仲間を『敵』とみなすのだ」



教壇まであがり、クラスを一望する。
よい眺めだ、そう感じながら言葉を続ける。



【リーナ】
「『いじめ』という現象も、その一つと我は考えておる。クラスの中のいじめの対象は先ほど話したいわゆる『敵』であり、打倒すべきものだ。

貴様らの打倒する手段、それが所謂『いじめ』。間違っておるとは思わぬよ。

しかし悲しきかな、それは一丸となって行われる。綺麗にまとまるのだ。

それは楽しいからだったり、

次の標的にされるのが嫌だからだったり、

はたまた皆がしているからというムードに流されているからだったり、

理由は様々だが、一つとなっていることに変わりはない。




我は、とても素晴らしいことと思う。




それが、仲間をいけにえに捧げる愚かしい行為だろうと」



聞きようによっては褒められた台詞ではないが、リーナは満足そうな表情で語る。



【リーナ】
「人間は一丸となって『敵』を打倒する様こそが素晴らしい。そのためなら我は助力しよう。



かかってこい貴様ら!今日から貴様らの『敵』はこの我!リーバルントゥ・ナーシャリアが受けて立とう!



集団暴行、差別、無視、どんなものでも真っ向から迎えてやるから安心しろ!



たとえ学校外でも我は歓迎するぞ!




戦争だ!武器を持て!一丸となり我(敵)を圧倒し、楽しませるがいい!!」




両手を広げ、役者のように語るリーナに、クラス全員、なにをするでもなくただ戦慄した。




そしてこの日、この時間からリーナとクラスメイトによる戦争が始まるのだった。




 




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