Vampire Tale | ナノ





『本日未明、――県並盛市の女子中学生が道端で気絶していたという事件が発生しました。女子中学生の首もとには噛み傷があり――』



ビルの大型テレビが夕方のニュースを伝えている。
通行人は誰もその大型テレビには目もくれず道を歩いていた。
そんな中、



【リーナ】
「ふふ、なかなかこの時代は楽しいな!」



吸血鬼はクレープ片手に、そう叫んだ。
いきなりの行動に周りの人たちは「美人なのに残念だ」「残念な美人だ」と言いながら過ぎ去っていった。
そんなもの意に介さず、リーナは上機嫌な笑顔でこの時代を満喫していた。



【リーナ】
「ふふふ……この我をここまで楽しませるとはやるな二十一世紀よ……」



口の横にクリームがついていることに気づいているのかいないのか、食べすすめるリーナ。
周りの人たちはそれを微笑ましそうに見守っている。
日本慣れしていない外国人をみる目だった。日本人は異国の人の行動を微笑ましく見守ることが多々ある。まさにそれだった。
クレープを食べ終わり、ゴミ箱から立ち去る。やはりクリームには気づいていなかった。
さて、そんなほっぺたにクリームつけてる間抜けな吸血鬼だが、気になる事があった。


それは、ほとんど同じ服装をしている集団。


全員同じ服装なのに、誰も何も言わず何もいぶかしそうな視線を送っていない。
思い出してみれば、昨日血を飲んだ女子も同じような服装をしていた。
いったいあれはなんなのだろうか。



【リーナ】
「……まぁ、聞けばいいか」



適当な人物に目を付け、その人物のもとへ歩いてゆく。
気弱そうな少年だった。
傍らに高身長の男子と銀髪頭を連れている。
しかし気にする理由などない。今はどちらかと言えばその服装について気になっていた。



【リーナ】
「もし、そこの」



声をかける。
まず最初に反応したのは銀髪のほうだった。



「なんだテメェ」



明らかにけんか腰だ。



「ご、獄寺君! あ、あの、俺になにか……?」


【リーナ】
「いや、なに。気になる事があったのだが、貴様たちのその服装はいったいなんだ?皆なぜ同じような服装をしておるのだ?」


「え?その服装って……学生服?ですか?」


【リーナ】
「がくせいふく?それはそう呼ぶものなのか?」



ほー、と少年のネクタイとちょいちょい引っ張りながらリーナは間の抜けた声を出した。



「十代目に気安く触ってんじゃねえよ!」


「獄寺君!」


【リーナ】
「ふっ、威勢がいいな。感心だ。若いのはやはりこうでなくてはな。しかし、そういっても手を振り払わないところ女性には案外甘いな?」


「んなっ」


【リーナ】
「良いぞ!男は女に優しくしてなんぼだ」



ははは!と銀髪頭の肩を痛くない程度にバンバン叩く。
リーナの押しムードにたじたじになってしまった。



「ははっ、面白れーやつなのな!」


【リーナ】
「面白いのは良い事だ。して、その学生服とやら……どこのものだ?」


「これ?並中だ。お前も同い年っぽいけど、どこ中なんだ?まさか学生服を知らないやつがいるなんてたまげたぜ」


【リーナ】
「……並中。ふふ、そこは学び舎か?」


「ん?まなびや?」



高身長の男子は頭に「?」を浮かべたまま笑顔だった。
わからないらしい。
見かねた気弱そうな少年が高身長の男子に代わり受け答える。



「ま、まぁ、学校です」


【リーナ】
「ほう、……」



リーナは一瞬考え、ニヤリと笑い、



【リーナ】
「我は本日こちらへ越してきてな。明日以降そこへ行くことになっておるのだ」


「えっ、転入生!?」


【リーナ】
「そうだ。まさか同じ学び舎で共に勉学をする仲間とは露知らず、挨拶もなしに失礼した。我が名はリーバルントゥ・ナーシャリア。人は我をリーナと呼ぶ。以後お見知りおきを」



スカートの裾をつまんで、上品にお辞儀をする姿は完璧なのだが、その堂々とした声とたたずまい。言葉は大分低姿勢なのに、それをまったく感じさせなかった。



【山本武】
「そうなのか!俺は山本武。よろしくな!」



人懐こい笑顔に犬を連想させられたものの、笑顔で「ああ、よろしく」と返す。
銀髪頭は不機嫌そうにこちらをみない。どうやらよろしくする気はないらしい。
そして、真ん中の気の弱そうな少年は、



「…………」



リーナを、険しい表情で見るだけだった。



【リーナ】
「ん?どうした少年」


「あ、いえ……あの、よ、よろしく!」



サッと頭を下げ、二人に「い、いこう」と言って道を歩いていった。
ほう、感心した声をあげる。



【リーナ】
「あの少年……気づきおったな」



先ほどの表情、あれは警戒のものだった。



つまり、リーナを危険な人物とみわけたということ。



【リーナ】
「なかなかの直感力だ。ふふん、将来が楽しみだなぁ」




そして、ふと気づかされる。
今は二十一世紀、そして先ほどの「十代目」の言葉。
まさか、やつはボンゴレ――



【リーナ】
「……いやいや、考えすぎだ」



だって、あの少年は、



【リーナ】
「……マフィアのボスなんて向いてそうにないじゃないか」



呟くと同時、ふと、その話題の少年がこちらを振り向き、



「あ……あの」


【リーナ】
「ん?」


「クリーム、ついてます……」



そういって、自分のほっぺを指差した。
リーナは手で口元を探り、「ああ」といった感じにぬぐった。
前を見たとき、少年は歩き出していた。




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