Vampire Tale | ナノ





ガヤガヤと外はにぎわっていた。
人通りが激しく、若者が大勢で行動する、休日の午後だった。

今の季節は丁度半そでが合う時期。
皆が皆涼しそうな格好をしている。
そんな中、



厚手のコートとつば広の帽子を着込んだ吸血鬼はただただ目立つばかりだった。



往来に仁王立ちするリーナを、通行人は迷惑がる隙もなくただ驚き、遠く避けて過ぎ行く。
さて、そんな驚愕の視線に晒され続けるリーナは、恥ずかしがることもなく、かといって気にする事もなく、顎に手をやって――こちらも驚いていた。



【リーナ】
「(人が箱に入っておるぞ…?)」



そう、車。
信号停止の車を見て、驚いていた。
車内の運転手は、着てるものが暑苦しいやら、なのに汗一つかいてないやら、やたらと美人なことやら、そんな「残念な美人」がこちらを凝視していることに、「え……な、何?お、俺…なんかやった……?」と人知れず戸惑っていた。哀れである。
そうしていると信号が青になり車が動き出した。
「箱が動いた!」とリーナはまたも驚く。
ちなみに運転手は「よっしゃああ!!」と逃れられる喜びに急発進したのを警察に補導されていた。どこまでも哀れである。



【リーナ】
「ほう、なるほど移動手段か……」



時代はかなり進んでいるようだ。そうリーナは確信した。
現代は二十一世紀。三世紀ぶっ通しで眠っていたこの吸血鬼が最後に起きていたのが十八世紀となる。
そのころからすでに電気の可能性は見つけられていたが、やはりその程度。
今の現代技術と比べれば比ではないだろう。
その進歩は吸血鬼すら圧倒される。
しかし、



【リーナ】
「しかし、空気が臭い……。自然も目を見張るほど少なくなっているな」



そう。
確かに人間はとんでもない進歩をこの三世紀で遂げてみせたが、代償は「自然」だった。
自然を切り開き開拓することによって進歩したといっても過言ではないかもしれない。
その事実が、この吸血鬼には目に余った。



【リーナ】
「これが諸行無常か?ブッタよ」



人間の技術が進歩するにつれ自然が減っていくこの流動変化。そこにかつて知り合ったブッタの教えを思い出す。
ああそういやあいつも死んだっけ、と考える。



【リーナ】
「ふん……まぁいいか。昔の事は」



リーナは思考を中断させ、颯爽と道路から身を翻した。
そこでようやっと、周りからの視線に気づかされる。
しかし、それは彼女にとって想定内のことだった。
当たり前だが、時代によって流行の服というものは変わってくる。
中世ではドレスが当たり前であっても、今はそれが違うように。
しかしまぁだからといってリーナの服装はどの時代であってもなじむ事は不可能だろうが……



【リーナ】
「ふむ……これが今の流行りか」



ある服屋のショーウィンドウの前に止まり、中に飾られえている服をまじまじと見つめる。




【リーナ】
「あまり派手なものは控えたほうがよさそうだな」




ふむ、と思案顔をしたそのとき、隅のほうであるものを見つけた。
それは、暗めの青のシフォンブラウスと、落ち着いた柄のプリーツスカートと、シックなパンプスの組み合わせ。



【リーナ】
「あれぐらいで丁度いい」



リーナは含み笑いをした。
すると、今までのコートがどこかへ消え、いつのまにかあのショーウィンドウの服とまったく同じものになっていた。
まるで何かの手品だ。
周りの人々はいきなりリーナの服装が変わったことに驚いたが、人ごみの流れは過ぎ去ってゆくもの。それと同じように驚愕の視線も過ぎ去っていった。
人間というものは、自分の理解不能なものを見ると、勝手にそれを現実的なものへ脳内変換をするくせがある。
そういう人間の愚かさがリーナは気に入っていた。

なんて扱いやすい生き物だろう――と。



【リーナ】
「ふん、さて……情報収集の続きだ」



リーナはパンプスを小気味良く鳴らしながら街中を歩き始めた。




 




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