Vampire Tale | ナノ






夜。

時計の針は午後八時を回っていた。
学生の大半は家に帰宅し、社会人たちの通勤ラッシュも大分少なくなってくる時刻。
一人の女子生徒が夜道を歩いていた。
友達と道草でもくったのか、はたまた部活か補習か。
とにもかくにも、彼女は人通りの少ない道を無用心にも一人で歩いていた。
人気の曲を口ずさみながら、いかにも上機嫌である。



そんな彼女の背後に、怖気の走るような存在が立っていた。



女子生徒がその存在に背筋を凍らせるよりも早く、その存在は、干からびた身体に似合わない鋭い牙のついた口を大きく開き、その首に噛み付いた。
ブツリ、と皮膚を突き破り、肉が押され、血管へと異物が無理やり突入する鳥肌のたつ感覚。
普通なら泣き叫ぶ痛みも、なぜか快感が走る。その意味不明な感覚に女子生徒はただ目を涙で濡らすだけだった。
確実に吸い出される己の血。
命の危機を、確かに感じた。
ヒィ、と喉が声ともつかない悲鳴をあげる。

死ぬ。

そう確信したとき、不意に噛み付かれていた首から口が離れた。
死から逃れた安堵感と、血の抜かれた力の入らない身体が地面へを沈む。

その様子をじっと観察する――美女。



「……はん。まずい血だなぁ」



女性は口元の血を親指でぐいっとぬぐう。
その一挙動作すら魅せてくる。

それほどの美女。

先ほどの死体とは……とうてい誰も思わないだろう。
まぁ世の中は広いので誰かしら思う人物はいるだろうが。
その人は明らかにどこかおかしい人物だ。



「おかしい、若い娘なはずなのにな」



大人びた風貌からは想像のつかない可愛らしい動作で小首をかしげる。
まぁいいか、と女性は思考を中断した。




「さて、今はいったいいつだ?何世紀になった?我はどれほど寝ていた?確か……18世紀に眠ったはず。いや、戦国時代にちょっと起きたか…」




女性は自分の記憶を手探っていたが、…三十秒後にはまた「まぁいいか」と片付けて、中断させた。




「まぁ、今がたとえいつであろうと……」




つば広の帽子を目深にかぶり、




「我はまたいつも通りに楽しむだけだがな」




ニイ、と凶悪に笑ってみせた。








彼女はリーバルントゥ・ナーシャリア。



正真正銘の――吸血鬼である。






 




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