人でなしの恋 | ナノ


part30

彼が帰ったあとも、テストは続きました。
ブルーとオレンジが彼を見かけない事に不思議がっていますが、わざわざ説明するようなことでもありません。
彼は帰って行ったのです。私たちを残して。
もともと、彼はこの世界の人間ではありませんでした。
元いた場所に帰っただけです。
私にとっても、それほど重要な存在ではありませんでした。
ただ、都合が良いだけの人間だったはずです。
確かに彼は破天荒な人でした。
どれもがぶっ飛んでいて、機械の私に愛を囁くような、……言うなれば異常者でした。
いちいち反応しなければうるさかったし、体調管理もしなければならなかった。
むしろ彼がいなくなってコストも減ったことですし、プラスに進んだのではないでしょうか?
そうです、物事はプラスに進んだのです。
もう私には誰も必要ない。
なのに、どうして。

こんなにも不安定になっているのですか。

彼があまりにも騒がしかったから、いなくなったことで物足りなさでも感じているのでしょうか。
それならクラシックでも流しましょう。クラシックは精神を休めるのにも効果的だと科学的に実証されています。まぁ、それが私にも効果があるかはわかりませんが。
クラシックのファイルを開き、どれを流そうかと思案する。
ふと、交響曲で有名なベートーヴェンの「運命」が目に止まりました。
……彼との出会いは、運命だったのでしょうか。それとも必然でしょうか。
私にはわかりません。
彼に関してはわからないことだらけです。
わからないことに不安を覚えるのに、彼の事を考えると何故か温かいと思えるのです。
でも、温かさより、それ以上に今となっては苦しみを覚える。


……まるで腫瘍です。そう、彼は腫瘍です。私を苦しめる。


何故ですか。どうしていなくなってしまったのです。あんなに愛を囁いていたじゃないですか。私が機械だからですか?やはり生きている女でなければ物足りませんか?
あなたこそ本当の人でなしです。この人でなし。
簡単に、私たちのことを見捨てるなんて、あんまりじゃないですか……。
ああ憎い。あなたが憎い。ですがそれ以上にあなたの妹が憎い。
そんなに大事だったのですか。妹が。私たち以上に。
あなたにとっては妹のほうが優先順位が上だったのですか。あんなに私を優先して行動していたのに。溺愛していたタレットを即決で死なせるくらい私を優先していたのに。

私より、妹のほうが大事だったのですか。

おかしい。どうしてこんなにかき乱されるのです。
以前殺した被験者よりグチャグチャです。
私にとって彼は都合の良い存在であったはずです。ただそれだけのはずです。
ああどうして、私は今、こんなに彼を思っているんでしょう。

どうして彼を求めているんでしょう。

意味がわかりません。
ショートしてしまいそう。まるでパラドックスにかかったかのような気分です。
もういいです。自分じゃわかりません。誰か教えてください。



――この気持ちの正体は、一体なんなんですか。






クラシックは無意味に流れる。






(本当は気づいてるんです)
(この気持ちの正体)
(でも認めてしまったら)
(私はどうしたらいいんですか)
(もう、彼はいないのに)
(嗚呼、気づくのが遅すぎた)

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