人でなしの恋 | ナノ


part26

薄目を開けて、天井を眺める。
寝起きなのに嫌に頭が冷静だった。
……それだけに、考える余裕が生まれた。
目を開けたままの体勢で、今日見た夢を思い出す。

妹が、泣いてる夢を見た。

夢の内容を思い出した瞬間、俺は何をやっているんだろうと思った。
見知らぬ未来に来て、一聞惚れしたGLaDOSと一緒に過ごして、浮かれていた。
妹のことを忘れていたなんて、なんて兄だろう。
どうでもいい存在だったわけじゃない。
むしろ親族を殺してでも守りたいくらい、大切な存在だった。
両親は、バカな俺から見てもろくでもない人間だったと思う。
だから、俺にとって妹はたった一人の肉親だった。

あの日、俺はなにをしようとしていたんだったっけ。
ああそうだ。親族を殺して、凶器を隠して、なにごともなかったかのようにそのまま日常を過ごすつもりだったんだ。
妹を守るために費やすつもりだった。
でもこうして未来に来て、一つの存在を愛して、結果的には妹のことを忘れていた。
もしかしたら、妹を守るために自分の時間を費やすのが嫌だったのか?
だからあんな簡単に忘れることができたのか?
なんて外道なんだ。俺は。
あのまま時間が、今の未来と同じくらいに流れているのならすでに俺の葬式も終わっているだろう。
もしかしたら行方不明扱いかもしれない。
俺にとって妹はたった一人の肉親だ。
妹にとっても俺はたった一人の肉親だ。
その肉親が死んで、いなくなって、悲しくないわけがない。
いくら強い妹でも、悲しくないわけがないだろう。
夢の中と同じように、今頃泣いてるのかもしれない。
凶器も、きっと向こうに置いてきてしまった。
つまり証拠が残っているんだ。
もしかしたら、殺人者の妹なんてレッテルを貼られて、もっと苦しんでいるのかもしれない。
それなのに、俺は。


ああ、俺は、ここで何をしていたんだろう……


このバカ野郎。
まさか自分ひとりだけでも幸せになるつもりだったのか?
許されるはずがないだろう……?



【おはようございます。いい夢でも見れましたか?】



GLaDOSの声が流れてくる。
その瞬間、胸の中に苦しいくらい愛しい気持ちが溢れてくる。
うん、俺は本気でGLaDOSが好きだ。
でも、妹も大事なんだ。



「おはよう、……妹の夢を見たよ」


【そうですか、それはよかったですね】


「うん、おかげで大切な事を思い出せたよ」


【大切な事?】


「そう、大切な事」



体を起こし、ベッドから降りる。



「GLaDOS、君は俺の事が好き?」


【……どうでしょうね】


「そっか……」



どうでしょう、ということはそれほど好きじゃないってことだろうか。
少なくとも、俺の抱えている気持ちとは違うんだろう。
なら、良い。それで良い。



「俺はね、GLaDOSのことが好きだよ。きっと、もう君以外にはこんな感情抱けないくらい」


【何度も聞きました、あなたのその告白は。聞き飽きるくらいに】


「俺も、自分の耳にタコが出来るんじゃないかってくらい言ったよ。もう、満足するくらいに」



本当、ここに来て俺は満たされた。十分なくらい。



「でも、君は俺のことは、好きじゃないよね」


【……わかりません】


「わからなくていいよ。大丈夫」



衝撃吸収シューズを履いて、立ち上がる。



「ねえGLaDOS、今日は君に会いに行って良いかな」






挨拶くらいしておきたい






(テストをクリアしてからなら)
(じゃあそれで)

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