part29
「やぁ、GLaDOS。約束どおり会いに来たよ」
【ええ、そのようですね。……それで?いったいどのようなご用件ですか…?】
こうしてGLaDOSと対面するのはまだ両の手で数える程度だけど、いつ見ても、本当に……綺麗だと思う。
また愛しさが溢れてくる。
ああ、本当俺はどうしようもないくらい彼女が好きだな。
「大切な事を思い出した、……って言ったの覚えてる?」
【ええ、覚えていますよ】
「俺さ、帰らなきゃいけないよ」
そう、帰らなきゃいけないんだ。
過去に。
「守ってあげなくちゃいけない人がいる」
【なにを、言ってるんです?】
「もったいぶらず言うけどさ、妹を守らなきゃいけないんだ。きっと今頃一人で泣いてるよ。助けないと。たった一人の……肉親なんだ」
【そうですか。……ですがどうやって帰るんですか?方法は?】
「確信じゃないけどさ、近い物を感じる。……俺、きっともうすぐ帰れるよ」
なんでかわからないけどね。
「だから、このportalデバイスと衝撃吸収シューズは返すね。あ、そうそう、このジャンプスーツも返すよ。クリーニングしてくれたんでしょ?俺の学ラン。ありがとう。綺麗になっててびっくりした」
【あなたが何を言っているのか理解できません。あなたは本当に脳に失陥があるのかもしれません。是非診断を受けてください】
「……GLaDOS、ごめん」
ごめん。本当ごめん。
あんな無責任に愛を囁いてごめん。
君がいれば本当に何もいらないけれど、きっと妹は俺が必要だから。
守ってあげなくちゃいけないんだ。
今までずっと妹に頼りっぱなしだったから。
少しでも罪滅ぼしをしなくちゃいけないんだ。
だって、たった一人の――肉親だから。
【わかりました。過去に戻ったら、妹さんも連れて――再びここに来てください。あなたの分のテストはまだ残っているんです。ケーキもあります。ですから、】
「俺も、そうすることができたら、きっと素敵だと思う」
愛する君と、大切な妹がいる。
ブルーもオレンジもいる。
それはきっと、とても素敵なことなんだろう。
でもそんな都合の良いこと、起こるはずがないって俺は知ってるんだ。
むしろ、こうして君と出会えた事が俺にとって最高の奇跡だった。これ以上を望むのはただの高望みだ。
「ねえGLaDOS、しつこいようで悪いけど最後にもう一度確認させて?」
【……なんですか?】
「君は、俺の事が好き?」
本当に、俺はしつこい。
諦めようとしても、諦め切れない。
女々しすぎて情けなくなってくる。
【……わかりません】
その返事を聞いて、安心した。
もし、万が一、君が俺を好きになったなんて言ったら、
きっと俺は過去を全て捨てて君と共にあることを望んだだろうから。
「良かった。それでいいんだよ」
だから、安心した。
学ランの一番上のボタンを留めて、身なりを整える。
うん、これでよし。
「ありがとうGLaDOS。……さようなら」
最後に、俺にできる精一杯の笑顔を浮かべて手を振る。
次の瞬間には、ここに来る時と同じあかが、目の前を染めた。
本当に愛してた
(……)
(どこに、行ったんですか)
(もしもし?)
(……リュー?)
皮肉ですね、あなたの名前を呼ぶのがこれが始めてだなんて。