2011年10月-2
-everyday-

夜、どうやって帰って来たのか覚えていない。
しかし身体で感じるシーツの感覚は自分の家のものだった。目を開けてみても自分の部屋だった。

「おはよう」

その声につられて目だけを動かすと、彼女の姿が目に入った。
ベッドに腰掛け、サイドテーブルに手を伸ばしている。
そんな彼女の腰に両腕を回し、思い切りベッドに引きずり込んだ。

「ぎゃっ?!!」
「うわっ!!」

彼女の困惑したような焦ったような色が滲む声の次に、バシャリと思わぬ衝撃がダンテの顔を襲った。

水だった。

「もう!びっくりするでしょ!」
「……悪い」

水が掛かった衝撃に、寝ぼけた頭がついてこない。
彼女が慌ててタオルを取りに行こうとしているような気がした。
だが、身体は勝手に動き、ベッドから出ようとした彼女を再び引きずり込む。
ぼふんと布団が彼女の勢いに潰されて間抜けな音をあげる。
ジャパニーズということもあるのか、こちらの女性よりも線の細い身体はダンテが力を入れればすぐに軋んでしまいそうだった。
抱きしめた彼女からダンテの好みの匂いがして、首筋に顔を寄せた。

「この、酔っ払いが」
「いてっ」

ガツンと、今度は脳天に容赦ない衝撃が走った。
顔を上げると半目でダンテをじとりと睨む彼女と目が合う。

「ちっ」

最初の頃なんて顔を真っ赤にしてすぐに逃げ出そうともがいていたくせに。
慣れとは恐ろしいもので、ダンテがしでかす毎朝のこの行為に彼女は順応してしまった。
最近は可愛さの欠片もない行動をしてみせる。思わず舌打ちが漏れた。

そして自分は酔っ払ってこういうことをしているわけではない。

「濡れちゃってるじゃない。風邪引くから」
「悪魔は風邪なんか引かない」
「うるさい」

ぴしゃりと言われ、ぐうの字も出ない。
可愛げがない。しかし離したくない。
よくわからない気持ちに心を揺らされながら、ぼんやりと彼女が自分の腕の中で身体を捩っているのを見ていた。
タオルを取ろうとしているらしく、サイドテーブルに腕を伸ばしていたが、自分を見てくれていないことに何だか腹立たしい気持ちになって、その手を上から抑えつけた。

「風邪引くって言ってるでしょ」
「だから悪魔は風邪なんか引かない。それより」
「ぐっ……重いよ、ダンテ」
「イイコトしたい」
「…何の冗談」
「冗談でこんなこと言うか?」
「ダンテなら言いそうだけど」

彼女を逃がさないように身体を閉じ込める。
少しは動揺した感じが声に出ていて多少は満足したが、それでも何かが足りない。
もっと欲しい、もっと欲しいと、朝から働く方向を間違えた脳が体に命令している。

「なあ」
「やっ、やめてよ!そこで喋らないで」
「いいだろ」
「…っん、やめ」
「足りない」

耳元で囁く言葉に熱がこもっていることに気付き、そのことにダンテ自身が驚きを隠せない。
彼女の耳はすぐに赤くなり、声も自分を誘うようなものにしか聴こえなくなってきた。

「何が、足りない、の」
「それを言ったらくれるのか?」
「何でそうな「この愚弟が!朝から何をしている!」

上から抑えつけてかなりの優越感を味わっていたら、それをぶちこわす兄弟の声が部屋に響き、視界の片隅にギラリと光るものが映った。
彼女から離れて身体を横にずらすと、すぐさま閻魔刀の太刀筋が横切った。

「ぎゃーっ?!バージル私まで斬るつもりだった?!」
「そんな失態をするわけがないだろう」

剣が作る風を感じたのか、彼女は慌ててバージルに詰め寄るが、彼はどこ吹く風。
彼女がすがりついたのとは逆の手に持った閻魔刀の切っ先を迷わずダンテに向ける。

「貴様、毎日毎日いい加減にしろ」
「うるせーな。オニイチャンこそ毎日正義の味方みてーに気取るのもいい加減にしろよ。本性は違うだろうに」
「下劣な思考をする貴様と一緒にするな」
「よく言うぜ、自分ができないからって八つ当たりか?」

ベッドからひらりと降りてファイティングポーズを取るダンテと閻魔刀を上段に構え直すバージル。


「二人とも、よく飽きないわね…」


早速起きた喧嘩を見ることも慣れてしまった彼女は、巻き込まれないようにとダンテの部屋をこっそりと出ることにした。


彼らの毎日はこうして始まるのである。


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