honey Sunday
瞼に光が落ちた。
目を瞑りながらも感じる明るさに目を開けてみれば、視界に入ったのは一秒一秒を正確に刻んでいる時計だった。
何時だろうと盤を見れば、約束していた映画の時間はとっくに過ぎていた。ああ良かった、前売り券を買っていなくて。

背中に感じる温もりは規則正しい鼓動を刻んでいる。そのことにも安心しながらもその人の腕の戒めを解いて抜け出した。彼が気付く気配はない。全く呑気なものだと思う。昨日も昼過ぎくらいに署に来て、捜査の資料の確認をして射撃練習に行ってパトロールをして報告書を雑に書いて終わったくせに。人が二人の死因を入念に探っていたというのにこの落差は何だろう。給料の違いがなければ色々な意味でやっていけない。

少々ムカついてバシンと強めに彼の額に手を叩きつけた。これで起きようが寝てようが知ったことではない。それでも幸せそうな表情を崩すことなく彼はまだ眠っていた。

とりあえず床に散らばっているシャツを拾い上げて歩きながら広げた。何がとは言わないが、何かが付着し、乾いた跡がはっきりとわかる。これは洗濯するしかないだろうと諦めて自身の箪笥へと足を向けた。今日はもう気合を入れて着飾る必要はなさそうだ。恋人がいても気を使わない自分の神経の図太さに若干感心と呆れを持ちながら、シャツに腕を通す。すぐにシャワーを浴びるので、洗濯されたまっさらな服を着ることが憚られたのだ。

まだ少し汗ばんだ、余韻が残る身体は重い。
ぺたぺたとフローリングの床に足が触れて離れる度に湿り気のある音がした。


「サーシャ」


寝起きの掠れた声が自分の名前を呼んだ。刷り込まれたように足が止まる。
そしてすごく恥ずかしい格好をしていることに気がついて、振り向けなくなった。自分が昨日着ていたワイシャツに、ショーツのみの姿。まだ起きないと思って油断していた。

「こっち来い」
「…私はシャワーを浴びたいんだけど…」
「どうせ後で入れてやるから」
「それって私の意識ないことが前提の言い方じゃな「あーあーうるせー」

バサリと掛けていた布団が脇にやられる音に心臓が更に大きく脈打った。
このまま突っ立っていては確実にベッドに逆戻りである。どんなに抵抗しても、現役の警察官に力で勝てるわけがない。ただでさえ全身が軋み、身体は悲鳴を上げている。
それなのに、動き、逃げることを戸惑う足があることも事実だった。ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているケビンとの距離は縮まるばかりだった。

「シャワー浴びるんじゃなかったのか?」
「う…うるさい…っ」
「俺はどこでもいいけどな」

逃げ場はない。詰まるに詰まった距離はもう薄い布を通してというわずかなものだ。
後ろから鍛え上げられた腕が伸びてきて、進路を断たれる。近すぎる距離にはいつも慣れずに、身体に変に力が入り強張った。肩が跳ねたことを見逃さなかったケビンはクスクスと息を漏らす。そのことも恥ずかしくなって思わずうつむいた。うつむいても視線の先には自分の足とすぐ近くにある彼の足が共にあるものだから、余計に近さを意識して顔に熱がのぼった。

「…ぎゃっ」
「色気がねーなぁ」

剥き出しのままの太股の内側を指先が触れるか触れないかの位置で滑っていった。ぞわぞわと表現し難いものが背中を駆けてゆく。この感覚は自分が変になりそうであまり好きではない。
指は太股を離れ、今度はシャツの中に無遠慮に入ってくる。ごつごつとした男の手が自分の身体を包むように触るというだけで恥ずかしさは一気に頭の中のメーターを振り切った。やがて手は膨らみを包み、ゆっくりと指が動き始めた。

「あ、や、やめ…」
「やめない」

頂きを指先が掠める度に大袈裟なまでに揺れる身体だが、その揺れさえも後ろから左腕一本で抑え込まれて刺激だけが体に溜まっていく感覚だった。ないながらにも揺らされる胸は、重力に従って落とされる度に頂が固くなってゆく。胸からも電気が走るような感覚があって、それは次第に足の力を奪っていった。

「ふ、あっ、あっ…やぁっ」
「…どうした?」

ガクガクしだした足に留めを刺すような衝撃が頭を駆け抜けた。一瞬のうちに混乱した頭はそのまま熱を持って何も考えられなくなる。やけに研ぎ澄まされた感覚を持っているのは太股で、それ以外は麻痺してしまったかのようだ。
何かが腹の奥からどろりとゆっくりおりてくる。いつの間にかショーツは下ろされていて、遮るものがなく、ひとたびそれが外に出ると、そのままツーと勢いを少し強めて足を下へ下へとおりていく。下を向いていたのが災いして、その下りた液体の色が目に入ってしまった―――白く濁った半透明の、それ。
昨夜出された彼の精液だった。濁りが薄く、見ようによっては透明に見えなくもないのは、

「しすぎたか…それとも、」
「やだぁ…!」

軌跡をなぞられて全身に鳥肌が立った。耳元でわざと息がかかるように言葉を発しないで欲しいと思いながらも、それどころではなくて咎める声も出せない。
確かに昨日は酷かった。何が原因なのか私には分からない程にケビンの性欲が強かった。あまり記憶が残っていないことから、途中で私の意識は飛んでしまったのだろう。

「現実逃避か?」
「んっ…あぁっ」

再び耳元で囁かれ、その囁きの中に咎めるような強い響きがあることに自分の身体は気付いていいた。ケビンのものではないものが滲んできたような気がした。彼の指は今や胸の頂きだけを弄び、固さを増してゆくのを楽しんでさえいるようだ。時折ぎゅっと強く弄られて身体は面白いくらいに大きく跳ねる。完全に膝の力が抜けそうになったとき、狙ったように持ち上げられ、浮遊感にふわふわしていた意識が一度現実に戻って来た。

「はぁ…はぁ…っ、ん…」
「ベッドに戻っていいよな?」
「…ん……」

ケビンの言葉さえもどこか遠くから聞こえるようで、彼の首に必死に腕を巻き付けて掴まることで精一杯だった私は頷くことしかできなかった。荒くなった息を静めようと呼吸の数が増えて上半身が小刻みに上下した。

「運動不足だな、絶対」
「一緒にしないで…」

体力馬鹿である彼と同列に物事を考えてもらいたくない。思わず苦笑が零れ、顔を少し上げてケビンの顔を見遣った。どことなく嬉しそうに目が細められているのは霧がかった目の錯覚だろうか。それとも本当に彼が嬉しいのか、わかりかねる。ぎゅっと腕に力を入れると肌が触れてまたどきりと心臓が跳ねた。

先ほどまで寝ていたベッドに再び下ろされて、そのまま上にケビンが覆いかぶさってくる。カーテンは閉まってはいるが、時間帯もあって光を遮れていない。電気をつけていなくても明るさのある部屋に落ち着かない気持ちになるが、ケビンはそれを気にすることもなく顔を寄せる。煙草の匂いが薄らと鼻につき、彼がどれだけ近くにいるのかを意識してしまう。
シャツは取り払われてまた床に投げ捨てられた。これから来るであろう快感に耐えるために手が何か掴まる物はないかとシーツの上を弄った。指先に触れたものを今入るだけの力を入れて引っ張ると、水色のワイシャツ―――R.P.D.の制服だった。

私がそうこうしている間にもケビンは私の首元に唇を寄せて思い切り吸い上げたり、弱めに噛みついたりとまるで獣(否、ただの獣である)のように動いていた。歯が軽く当たる度に背中が浮き、刺激から逃れようと反っていくが、彼にしてみればそんなことは全く関係ないらしい。更に強く上から抑え込まれて逃げ場がなくなっていくだけだった。


結局、私はケビンが警察署に行く直前まで抱かれ続け、休日を潰してしまったのだった。



「自分の制服を自分の女が必死に細い指で握りしめて顔を埋めて声を我慢してるけど抑え切れてなかった所為だ」

後日になって、何故そこまで激しかったのか本人に問いただしたら何とも変態くさい台詞が返って来て、思わず書類でケビンの頭をぶっ叩いた私だった。


2011.09.01 外川
お題元:霜花落処


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