お掛けになった電話番号は、電波のない―――、女性の機械の声に、思わず舌打ちが出た。

二度寝をしてから、結局2時間もしないうちに再び目が覚めた。何だかんだでメールが気になった、万が一、重要なメールだったら2時間も放っておいてはまずい。
ベッドサイドに置いておいた携帯を手にとる。まだ頭は寝ぼけているらしい。自分が思っているように機敏に手は動いてくれない。
何度か操作に失敗しながらも、メールフォルダを開く。新着メールは朝に来たあの一件だけだった。

「……………?!」

とても長いとはいえない、業務連絡のようなメールだった。それでもそれはレオンの頭を起こすには十分で、レオンは目を見開いた。

嘘だろう、と。口をついて出たのはこの一言だった。

もう一年近く前になるだろうか、ロス・イルミナドス教団の例の事件で偶然再会した少女(否、もう少女ではなかった)、ディアナ・アストライア。帰り際に、急いで書きなぐったメモの切れ端を彼女に押し付けた。メールアドレスと電話番号だけを書いたものだった。

本当は、彼女の傍にいて、事件後のフォローをしたかったというのが本音である。

ラクーンシティ崩壊の時に出会った少女は、当時は戦うことに抵抗を持っていたし、恐怖を感じていた。レオンもクレアも恐怖がなかったといえば嘘になるが、どちらかというと戦士のようなタイプの二人はその異常な環境に順応してしまい、ゾンビと化した人々を必死にかわしていたと思われる。しかし、ディアナは本当に普通の一般人の女の子で、体力もないし運動も特別できるわけではなかった。
そんな彼女が、3カ月後に単身でクレアを助けに行くと言ったときは驚いたものだ。ゾンビであっても元は人間だったということがあるのか、ゾンビが再び死んでいくときにも祈りを欠かさなかった彼女が。確かにその辺の警官よりも銃の扱いは上手かったが、それでもレオンは心配だった。折角生き延びたのに、わざわざ死にに行くようなことをしなくてもいいではないかと思った。彼女の元には、兄のクリスが向かう。
それでも引き下がらないディアナに根負けし、クリスにディアナと共にロックフォート島に向かうように頼んだのもレオンである。


「クリス…無事だったの…良かった」
「ディアナ、すまない、恐い思いをさせて…」
「いいの……それにクレアにもレオンにも守ってもらったから大丈夫」


ありがとう、とクリスに向けた彼女の微笑みが、自分に向けられたものと違うような気がした。まだ16歳のはずの少女に見えたが、その表情は“女の顔”だった。警察署内を駆けまわっていたときは年下の、5歳も下の女の子だと思っていたのだが、それはどうやら間違いだったらしい。

彼女たちがロックフォート島に行くのを見届けた後は自分なりにアンブレラを追ってきた。

そんな中で再会したディアナは、その場にいるのがおかしいくらい、輝いて見えた。
クレアやクリスとは連絡をとっているが、彼女の連絡先は知らなかったために、本当に言葉を交わすのも顔を見るのも6年振りだった。クリスの話だと、どうも彼女は“普通に生きること”を選択したらしく、大企業(トラウマなのか製薬会社ではない)で普通に働いているとのことだった。だが、ディアナが“普通に生きよう”とすればするほど、姿を変えながらもアンブレラやウェスカーの手が伸びてきているとのこと。ディアナがt-ウイルスに対しての特別な何かがあることは、クリスが話していた内容から察することはできたが、詳細に話すことを彼は渋っている。

ディアナはガナードに迷わず引き金を引いていた。ラクーンシティやロックフォート島、南極での戦いを経て、彼女はどこか大きく成長していた。成長といっても悲しい成長である。
引き金を引いているときの表情は無表情だが、心では痛みを感じているに違いない。ロス・イルミナドス事件でもかなりの弾数を使ったはずだ。レオンでさえ今も元人間を殺すことに抵抗がないとはいえないのに。民間人の彼女が平気なわけがない。

アシュリーの護送が最重要任務だったためにディアナの近くにいることはできなかった。仕事だ、仕方がない。それでも、せめて何か繋がりが欲しかったし、彼女に繋がりを与えたかった。
クリスもクレアも世界中を飛び回っていて忙しい。彼女の両親も世界中を飛んで何かの研究をしていると聞くし、彼女は実質一人の時間が多い。
もしかしたら彼女の痛みを癒してくれるパートナーはいるのかもしれない。だが、どうしてもその位置に自分を置きたいと思った。

【メールありがとう、ディアナ。空港に着いたら連絡をくれると嬉しい。】




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