レオンに抱えられているディアナの顔色が悪いのは、こんなに暗くてもちゃんとわかる。脱出する前に頭もに怪我をしているから本当に満身創痍の状態で、今も小さく荒い呼吸が痛々しくて見ていられない。たまに苦しそうな咳が聞こえると耳を塞ぎたくなってしまう。

ディアナは案外に無茶をするということに気付いたのは、ラクーンシティを抜けた後のことで、十年以上の付き合いがあってもそれまで知らなかった。警察署や研究所では、私はディアナと全く行動しなかったようなものだから、少し見ない間にディアナが一人で先に行ってしまっているような気がして恐かった。―――私から離れないで、お願い、これ以上私を一人にしないで!
ユタの実験施設でもディアナはレオンと動いていた。合流したとき、今と同じようにレオンの腕の中でぐったりしているディアナを見て世界が真っ暗になった。自分の怪我なんてどうでも良くて、何があったの何があったのと、疲れているレオンに詰め寄った記憶も今となっては昔のことだ。

-vaccine 01-

「ディアナ、ディアナ」
「……ん…」

たった数分の間のことだったはずだが、ディアナはレオンに揺り起こされ、目を開けた。いつの間に眠ろうとしていたのか思い出せない。上っているときに殆ど揺れないレオンの気遣いが心地よかったのかもしれない。電車の中で寝てしまうような感覚だった気がする。こんな大惨事の中で?―――少し自分を嘲笑しながら、ディアナはゆっくりと地面に足をついた。壊れ物を扱うかのようなレオンの手が名残惜しく離れたが、体を伸ばしたためにズキリと大きく痛んだ腹を抑えようとしてふらついたところをすぐに支えてくれた。

「…ごめんなさい」
「大丈夫か?」
「うん…」

自分の体に自信が持てない。今もレオンの肩に手を置いていないと体が支えられない。この手が離れたらきっと倒れてしまう。
だが、レオンはエージェントとしてこの場所に、生存者を無事に外へ連れ出すという任務で来ているのだから。だから自分がその足を引っ張るようなことがあってはならないと強く思い直し、震える足に叱咤する。震えてる余裕なんてないのよ、と。

「私が支えます」
「え、でも…」
「…議員のしたことは、私の責任ですから」

秘書の彼が、レオンに代わってディアナの腕を取る。レオンより格段に細く頼りないが、支えてもらえるのは正直言って有難い。

「失礼します」
「わ…っ」

腰の辺りを支えることが一番安定するのはわかっているが、実際に男の人に触られたと思うと、顔に赤みが差してくるのが感じられた。ディアナはありがとうございますと小さく言ってしまったが、彼にはちゃんと聞こえていたらしく、「こちらこそ申し訳ありませんでした」と言ってくれた。別に彼が悪いわけではないのに。罪な仕事だなと薄ら頭の中で思いながらディアナは進行方向を再び見据えた。

ディアナが手を離れたため、レオンはクレアとラーニーが上ってこれるように手を貸した。視界の端に映るディアナと秘書を見ないように努めながら。ラーニーをまず引き上げ、次にクレアを引っ張る。彼女の場合はほとんど力は必要なかったが。

「……辛いわね、その立場も」
「…まあな…」

耳元でそっとクレアが囁いた言葉に、思わず苦笑するしかなかった。そんなに顔に出ていたかと思うが、肝心のディアナがそれに気付いていないのだから意味があるのかないのか計りかねるところだ。

クレアが立ち上がるとすぐにラーニーが抱きついてくる。その小さな肩を抱いて、クレアをベルトに引っ掛けていた銃をレオンに返した。

「ありがとう」

そして辺りを見回し、今の今まで忘れていた言葉を吐きだした。

「―――上院議員は?」






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