ラーニーが下に落ちてクレアがそれを追った―――そこまではレオンにも確認できた。しかし、ラーニーの近くにいたはずのディアナもいない。心臓が急に早鐘になる。まずい、彼女はどこだ?!
その一瞬の隙をつかれたかのように、ゾンビがレオンに噛みつこうと襲ってきたのを避けることができなかった。そのまま地面に倒されたが、力はレオンの方があることがわかり、ゾンビの肩を抑えて近づく顔を避ける。避けながらまずアンジェラに二人を助けてもらおうと見るが、彼女が抜けたら一気にゾンビがこちらになだれ込んできそうだった。クレアとラーニーの周囲を見ると、ゾンビに囲まれていて最早逃げ場がない―――、一か八かで銃を投げるしかない。だがレオンにはそれができると確信があった。外れる気はしない。それにクレアも受け取ってくれるだろう。

「クレア!」
「!」

名を呼び、自らが今まで使っていた銃を投げた。
突然のことでも、クレアはすぐそれに対応し、一番近くまで迫っていたゾンビを蹴り飛ばした。思い切り良く首元に入った蹴りのおかげで、そのゾンビは地面に倒れこんだ。
タイミング良く手元に届いた銃を持ち直し、辺りのゾンビを一蹴する。ガン、ガンと間をあけずに放たれる銃は、彼女の腕前を暗に示していた。

最後に最初に蹴飛ばしたゾンビの額に風穴を開けて、クレアは息をついた。わずか数秒の間の出来事だった。

その間にレオンも巴投げでゾンビを後方へと投げ飛ばし、サイドホルダーに入れていたもう一丁の銃で追撃した。ゾンビが動かなくなったことを見て、クレアたちの方を見るが、もうそこは掃討された後だった。クレアとラーニーの周りには円状にゾンビたちが倒れていた。

「大丈夫か?」
「なんとかね」

冷静に言葉を交わす二人だったが、レオンはディアナをすぐに探し出した。

「ディアナ!」

呼んでも返事がない。嫌な予感がする。
アンジェラが撃ち込んでいる方向からしかゾンビが来ていないことを確認して、レオンはその場を下りた。
クレアに抱きつき、何かに気付いたように離れたラーニーが慌てた声を出す。

「ディアナも落ちたの!」
「何ですって?!」
「その辺りに…」

ラーニーが指差す方向にバッと顔を向けると、瓦礫のせいであがっている砂煙の中に倒れている人間を見つけた。ゲホゲホと咳をしていて、肩がそれに合わせて上下していた。ゾンビは咳をしないため、すぐにディアナだと分かる。

「ディアナ、」
「レオ…ゲホッ」
「どうした?!」

下を向いて咳をするが、彼女の眉間には皺が寄り、その咳だけでも体に痛みが走っている様子だった。

「…上から、落ちて…」
「それは見ればわかる!どこか打ったのか?!」
「腕と…お腹の辺り」
「…!」

ディアナの袖を上げると、真っ青になった腕が出てきた。そっと触れただけでディアナは顔を顰めた。折れてはいないが、持ち上げるのも痛そうだ。
次に彼女の肋の辺りを少し圧してみるが、彼女が小さく呻く。触っただけでは折れているかわからない。

「折れてはいないから大丈夫」
「…吐血は」
「ない、大丈夫…」

苦しそうに笑って見せるディアナがか弱い存在に見えて思わず抱きしめそうになる。だが体が痛む彼女にそんなことができるはずがなかった。グッと歯を食いしばった後、レオンはディアナを抱き上げた。倒れたままだったところから考えると、一人では立ち上がれなかったとしか思えない。

「レオン、大丈夫だから…」
「大丈夫なわけがないだろう!」

ディアナは弱弱しく彼の腕を叩くが、もう彼女の“大丈夫”は聞き飽きた。思わず声を荒げてしまい、ビクリと彼女が腕の中で震えた。

「…すまない…でも俺は君に無理をして欲しくない」
「……ごめんなさい…」

ゆっくり彼女の腕が持ち上がり、レオンの首に巻き付いた。瓦礫を上がるときに迷惑にならないようにだろう。ぐっと近くなった彼女の髪は、あれだけ砂埃に巻き込まれても美しく、良いシャンプーの香りがしていた。

(いつも守りきれない、情けない…)

完璧に彼女を守ろうとすればするほど、彼女が追い込まれてしまっているような気がしている。ラクーンシティでも、ユタでも、あの村でも。自分の立場や任務の所為もあるが、何より身一つ彼女の為に投げだせないことがやるせなかった。

それでもレオンが近くにいると微笑みをくれるディアナ。自分の首にある彼女の細い腕を感じながら、レオンはもといた場所へと上っていった。




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