助けが来たということと、先ほどゾンビが部屋からそう離れていない場所で出たことから、ラウンジから離れることになった。
ラウンジに姿を見せた途端にラーニーがクレアとディアナに抱きついてきた。クレアはそのままラーニーを安心させようと何か話している。

「大丈夫か?」
「ええ、大丈夫」
「負傷者がいると聞いているが、議員と誰だ?」
「えーと…」

「ディアナよ」

隣に立っているレオンに尋ねられ、つい癖で大丈夫とディアナは答えてしまった。次の質問に「自分が怪我をしています」とは言いづらくなってしまい、言葉に詰まる。
すかさずクレアがレオンに報告すると、レオンは咎めるような視線をディアナに向けた。

「…大丈夫だと?」
「…ごめんなさい」

暗い中でも恐い顔をしているのが手に取るようにわかる。素直に謝ると、強張っていたレオンの表情が少し緩んだ。

「何発撃った?」
「…四発だと思う」
「あと十発程か」
「多分」

今までに何発撃ったか思い出すと、自分が息の根を止めてしまった人数がまざまざと突きつけられる。ゾンビになっている時点で死んでいるとは言っても、人の形をしている生き物を殺すことはいつになっても慣れない。

「それよりも、これだけなのか?!」

ヒステリックに叫ぶ上院議員の声が、レオンとディアナの会話を遮った。

議員の言うことも尤もであるとは思う。
だがそれは現場を知らない新人警官のような言葉である。レオンは冷静に「そうだ」とだけ返した。嘘をついても仕方がない。

「で、増援は?」
「来ない。俺たちだけだ」

レオンは確かに二人を連れて来ていた。ディアナは改めてその二人を見る。一人は大柄な如何にも強そうな人間だった。もう一人は女性で、一見すればSRTの人間だとは思わないだろう。しかし隙のない雰囲気は正にSRTだと思わせる。
その女性の方と目が合った。暗闇でも美人だと分かる。

「何をバカなことを!当然何か特別な策でもあるんだろうな?」
「全員でロビーを突っ切る」

レオンの策は頭になかったのか、呆気にとられた空気がその場に流れた。レオンに着いてきた二人も驚いているようだった。

「気は確かか!ロビーが一番感染した奴の数が多いんだぞ!」
「だが一番広い。長時間さまよう方が危険だ」

その言葉は正しい。
狭い中をぞろぞろ歩くとなると、襲われたときに対処ができない。それならば広い場所に出て一気に動いた方が良い。

「その通りね」

ディアナと同じことをクレアも思ったらしい。ラーニーを抱き上げ、全員を見渡しながらレオンの意見に同調した。

「敵の動きは早くない。逃げ切れる」

真っ直ぐ周りを見つめるクレアの視線に迷いはなかった。

「なんだ?たかだかNGOの人間がずいぶん分かったような口をきくじゃないか!」

あなたに私たちの何がわかるの、そう言いかけて一歩前に出ようとしたディアナをレオンが制した。そのおかげで、カッと頭にのぼった血がおりていくような気がしてディアナは口を噤んだ。

「彼女はラクーンシティの生き残りだ。だからこの手の修羅場についてはよく知っている。ここにいる誰よりもな。そして、このディアナもだ」

非常に冷静なところは変わらない。
レオンが大人に、自分が子どものように感じてしまう。ディアナは手に届かないものを見るようにレオンを見上げた。後方でラクーンシティについて囁き合うアンジェラたちの―――特にアンジェラの視線を感じながら。

「じゃあ決まりね」
「ああ」

クレアとレオンの言葉で周りが動き出す。

まずレオンが先頭を行き、その後ろにクレアとラーニーが続く。列の真ん中にアンジェラが入り、サービス係の女性と秘書がその後ろに、最後に議員を抱えてグレッグが走る案が出た。

「それで良いと思うわ…ディアナは?」
「…あまりやらせたくないが、グレッグの援護に回ってくれ」

レオンの本心としては、共に行く道を切り開くことをして欲しいところだが、議員を抱えたグレッグがどこまで後ろから迫るゾンビを振り切れるかがわからない。同じ人間であると言っても、“議員”であるからには要人としての保護が必要である。

「だが、もし頭痛がきたり怪我をしたらすぐに先頭に来てくれ、いいな」
「分かった」

頭を怪我しているディアナには銃を撃ったときの振動も大きい痛みに繋がりかねない。それでも他に銃火器を扱える人間がいないことが大き過ぎて、切り抜ける方を優先させざるを得ない状況だった。

ディアナも先ほどの救出の緊張ですっかり痛みを忘れていた。そのせいか今も落ちついている。
これからまた痛みが起きたとしても、それ以上に集中しなければならないことは容易に想像ができる。それなら大丈夫だろう。感染をしているわけでもないし、ディアナにはt-ウィルスには絶対に感染しない抗体がある。自分でそれを知っていることは大きな強みと少しの気持ちの余裕を与えてくれる。

「本当に大丈夫だな」
「ええ、後ろは私とグレッグに任せて」

よろしくお願いしますとグレッグに頭を下げると、グレッグもつられて「よろしく」と返してくれる。

「行くぞ」

短く発せられたレオンの言葉には、エージェントの威厳が籠もっていた。






「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -