『生存者の数は?』
『私を含めて5名。負傷者2名、上院議員と民間人1名よ。民間人の方は頭に負傷しているし、出血もあったわ。今は気を失ってる。ここもいつまでもつかわからない。早く助けに来て!急いで!』

つい先ほど入ったという通信。
声はどうもクレアのものに思えるが確証はない。あの大規模空港で生存者が5名というのは、少ない。しかしそれでもよく生き残れたものだとも思う。
切羽詰まっていたのか、生存者の名前が言われることはなかった。それが余計にレオンの不安を掻き立てる。ざわざわと胸の内に広がる焦燥を無理矢理抑えつけて、アンジェラとグレッグに冷静に作戦を伝える。二人は驚いたようだが、被害を最小限にするには、最小限の洗練された人間で行くしかない。

あのラクーンシティの警官たちが全滅したくらいなのだ。S.T.A.R.S.だって死んでしまった人間の方が多い。
大人数で押しかけ、誰かが感染したら終わりだ。

思い出されるのは、ディアナをロックフォート島へと送り出した時だ。守りたいと思う者が自分の目の届かないところにいるときの不安感は、何より耐えがたいものだ。
もう一つ思い出されるのも、やはりロス・イルミナドス教団のときの離れ離れになったときで、再会した後に引き離されるほど恐ろしいものもない。
誰かを救助する上で「助けなければ」という焦りは常にあるが、申し訳ないがディアナを助ける焦りとは比べ物にならない。

エージェント失格だなと心の中で嘲笑が起きる。
所詮自分もただの男だと痛感させられる。

ディアナが何度も死線をかいくぐってきたといっても、それが今回も通用するとは限らない。

「…このウィルスに感染した者は人を襲う。相手がだれでも見境なくだ」

銃の点検をしながら言う。アンジェラとグレッグは点検が終わっているのか、黙ってレオンの話を聞く。

「噛みつかれた人間は、間違いなく感染し、更に次の人間を襲う。被害の拡大を防ぐには、感染者の脳髄を破壊するしかない」
「感染者の脳髄を…破壊?」
「頭を撃つってことさ」

ガシャッ

装填は終わった。
アンジェラとグレッグの二人は戸惑いを隠せず、二人とも顔を見合わせていた。頭を撃つなんてこと、普通なら経験しているはずがない。

二人はゾンビを見たことがない。だから“人間”を撃つと思っているのだろう。

レオンもゾンビと割り切れているわけではない。たった数時間前はまだ生きていた“普通の”人間を撃つことに抵抗はある。目の前で一瞬にしてゾンビに変わった人間だって見たことがある。そんな人を自分の手で最後の息を止めてしまって良いものかと悩んだこともある。

「着いたぞ」

あの街の惨劇が蘇る。掘り起こされる。
滅んだ街、その光景が今の閑散とした暗い空港が重なって見えた。


不気味さを通り越すような静けさが空港内にあった。まだゾンビ達がそこまで大きく動けていない証拠だ。この近くに生きた人間がいない証拠でもある。どうやって嗅ぎつけるのかは知らないが、ゾンビ達は生きている人間に迷わずに向かってくる。極限状態までいくと仲間同士で食べたりもするらしいが、まだバイオハザードが起きてから数時間、そこまでの状態には至っていないはずだ。

しかし、それは楽観だった。
まだレオンのことを信じられなかったアンジェラが、レオンの指示を無視して声がする方へと行ってしまった。ゆらりゆらりと起き上がる職員たちは既に全員が感染していて、生きているレオン、アンジェラ、グレッグへ向かってきた。何とかその場を脱し、これから本当の目的地であるVIPルームに向かう。
アンジェラとグレッグは実際にゾンビたちを目にしたことで現実が見えたらしい。信じられないという表情をしていたが、信じざるを得なかったようだ。

その後、レオンたちの放った銃の音が聴こえたからなのか、廊下に出てから所々でゾンビに襲われることがあった。幸いにも少ない数だったために、何発かの銃弾で事なきを得た。

そろそろVIPルームに着くころだ。

そのとき、耳を劈く叫び声が廊下一帯に響いた。






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