クレアにメールを返信してから、レオンの携帯が着信を知らせることはなかった。ディアナへ何と返事をすればいいか、どう返信すればすっきりとしつこさを感じさせない印象を与えるのか、そればかり考えている。そんな休日を過ごしている自分は案外暇なのかもしれない。

ディアナは既に新居(新居というと結婚したみたいで何だか腑に落ちない)に到着したのだろうか。ハーバードヴィル空港は今日はデモがあるとかで、近づきにくい場所であることはレオンも知っている。デイビス議員も余計なことをしてくれるものだ。
だが、ウィルファーマが怪しげな人体実験をしているとはいえ、あの企業は今T-ウイルスのワクチンを作ることができる唯一の会社である。その点においては一方的に批判をできないところが歯痒い部分である。もちろん人体実験などもっての他なのだが。写真は連日ニュースで流されているし、レオンが所属する機関には大量の機密文書が集まっている。人体実験がただの実験でないことは一目でわかる。ラクーンシティを経験した自分が思うのだから間違いない。

携帯電話が着信を知らせた。手に持ったままだったために、驚きで肩が跳ねたが、すぐに頭を冷ます。通話ボタンを押す前に相手を確認する。―――ああ、仕事だった。

「……はい」
『…随分と嫌そうな声ね』
「わかっているならかけないでくれ」
『そうもいかないわ』

電話の相手はレオン直属のオペレーターのハニガンであった。いつも通り冷静にレオンの口撃を流し、ピシッとした声だ。

「何かあったのか?」
『テレビを見ていないのね…ハーバードヴィル空港でバイオハザードが起きて対策を講じるから、今すぐホワイトハウスに来てもらえるかしら』
「ハーバードヴィル…?」
『ええ、今日はデモで人が多いはずだから被害も大きくなりそうよ』
「わかった」

震えそうになる声をなんとか冷静に抑えた。
ピ、と電話を切った機械音がやけに響く。

ハーバードヴィル空港、まさにディアナが今日利用した空港だ。彼女からメールが返ってきてから1時間と経っていない。

もし、巻き込まれていたら―――。どうしようもない不安が湧いてくる。やはり格好つけてないで強引にでも迎えに行くべきだったのかもしれない。

しかし悶々と現場のことを考えても仕方がない。彼女は何だかんだで何度も共に命を拾っているのだから、きっと今回も何か行動を起こしてくれているだろう。

それにしても、何気なく普通に返してしまったが、先ほどのクレアのメール。ディアナの携帯で一通目は来たのだから、もしかしなくても一緒にいるのか?ディアナが嬉しそうだなんて、遠くにいれば表情なんてわからないものだから…。

クレアも一緒なら、希望をもう一つ持つことができそうだ。彼女はテラセイブに所属しているし、今日空港にいる確率は高い。

「…………泣けるぜ」

明日は事務処理に追われそうだ。
折角、ディアナを誘ってワシントンを案内しようかと考えていたところだったのに。

* * * * * * *

「ディアナ!ディアナ!」
「……ん、…くれ、あ」

ぼんやりとした視界が段々とはっきり見えるようになってくると、クレアが自分を覗き込んでいるのがわかった。必死に呼びかけてくれていたらしく、返事をするとぎゅっと抱きつかれる。右手に温かさを感じたために手を見ると、そちらにはラーニーがいた。

「ここ…」
「VIPルームよ」

のそのそと起き上がるが、後頭部に痛みが走った。思わず頭を抑える。クレアがディアナの背を支えてくれる。
視界がはっきり見えるようになったといっても部屋が暗いために、人がいることくらいしか確認ができない。
VIPルームというからには、先ほどのロビーからはそう遠くない位置にいるのだろうか。

「…頭痛い…」
「上から瓦礫が落ちてきて当たったの。血も出ていたからあまり動かさない方がいいわ」
「…911には連絡した?」
「ええ、助けが来ると思う」

散々な休日だ。もしかしたらワシントンと自分は縁がないのかもしれない。

周りを改めて見て人数を確認する。クレア、ラーニー、上院議員、空港職員、そして自分。この五人しか生存者はいないのかと思うと、目の前が再び真っ暗になる思いがした。
他の人は?空港の外へと出ることはできたのか?それともほとんどの人がゾンビと化してしまっているのだろうか?あの飛行機が突っ込んできたことで亡くなった人もいるだろう。爆発がなかったことが唯一の救いだ。もし爆発していたら、今頃自分もクレアも議員も死んでいたに違いなかった。

「ここも時間の問題だわ。急いで来てとは言ったけど…」
「警察は組織だもの。少しかかるわ」
「…あのロビーからそう離れていないから、いつゾンビが来るか…」
「来たら来たでそこのドアの前で止めるしかないけど…」
「武器がないのよね」

VIPルームにベレッタだのマグナムなどそんなものはあるわけがない。というより、まず拳銃を携帯できるのは、そういう職についている人くらいだ。
ディアナの手に再び握られた銃も、あと何発残っているかわからない。

「ここは警察を信じるしかないわね」

あまり希望を持っていない声でクレアが言うことにディアナは頷くことしかできなかった。






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