私の可愛いディアナ。
初めて会ったときに、私たちはまだほんの子どもで、でもディアナは私が大事にするのだと心に決めていた。
私たちの両親は亡くなってしまったから、私にはディアナが妹に見えた。妹としてもおかしくない年齢だし、面倒見の良い兄に私たち二人は育てられたといっても過言ではない。
兄のこともディアナのことも大好き。それは今も変わらないけれど、ディアナが事故に遭ってから兄とディアナの距離がますます近くなって、一人置いて行かれた気がしていた。兄もディアナもそんなことはないに違いないのに、まだまだ子どもだった私は反発してしまうこともあった。

兄が働き出して、空軍でパイロットをして、でもすぐにS.T.A.R.S.に入って、めまぐるしい一年。兄が入ってすぐ、ディアナの両親はS.T.A.R.S.を辞めた。というか、ラクーン市警察を辞めた。そして彼らはディアナを残して世界を転々としながら仕事をしているらしい。どんな仕事かは決して教えてくれなかったが、今になってみればわかる。ディアナのようなどのようなウイルスにも完全な抗体を持つことについて調べて回っているのだろう。今のところそれが確認されたのは一人だけで、なかなか出会うことはないと言われている。それもそうだ。

1998年のラクーンシティ脱出とロックフォート島、南極の事件を通して、私もディアナも大きく変わったと思う。ディアナは何でも一人でやろうとするようになった。私と兄はいつからディアナがアルバート・ウェスカーに追われ始めたのかは知らないし、ディアナも教えてくれない。いつ狙われるかわからないから、早めに頼ってと言って、ディアナも頷いてはいるけど、きっと最低限しか頼ってくれないような気がしている。
いつの間にか銃の扱いは私よりも上手くなっているし、あまりディアナをそういう世界に巻き込みたくはないのに。でも私たちが巻き込まれてしまったこの世界の運命には逆らえないのかもしれない。私は救済の道を選んだし、兄やレオンは撲滅の道を選んだ。ディアナは非戦の道を選んだ。ウェスカーに捕まったらそれから先のことは何となく想像がつくから誰も口にしない。恐らく実験台にされるのだろう。ディアナの選択は正しいのだ。時には逃げることも大切だと思う。

そうだとしても、あの子が冷たい表情で銃を撃ったことに驚きは隠せなかった。

-airport 03-

「ディアナ…」
「クレア、早く逃げないと……」 
「え…ええ」

ガチリといつでも銃を撃てるようにした音がクレアの耳にも届く。辺りを冷静に見回し、ディアナは再び一発の弾丸をゾンビに撃ち込んだ。寸分違わない弾道はゾンビの額の中心を撃ち抜いていた。

議員秘書は議員を置いて逃げ出し、その場には腰を抜かして動けないでいるデイビス議員が残った。キャスターもデイビス議員どころの話ではなくなってしまったらしく、必死に空港内の惨状を伝えようとしたものの、カメラマンが逃げ出してしまう。キャスターの後ろに迫るゾンビの頭を狙いながら、ディアナはふらりふらりと自分たちから離れて行ってしまうラーニーを見つけた。思わずクレアの袖口を引っ張り、ラーニーの方向を示す。

「ラーニー!」

クレアが走り出した。周りの騒音に掻き消されてラーニーにクレアの声は届いていない。人の流れに逆らうために、体が押し戻されている。それでもクレアは必死に人ごみをかき分けている。

「ガアアアアア」
「!」

クレアの方ばかりを見ているわけにもいかない。ディアナの近くにも何人もゾンビが独特のおぼつかない足取りで向かってきている。いつの間にか感染が広がっている。今自分が持っている弾数では全く足りない。

ディアナも今は逃げるしかないと走り出す。間一髪でゾンビの手をかわし、クレアが走って行った方へと向かう。ラーニーはVIPルームの方へと向かっている様子だった。ゾンビたちは、今のところその方向からは来ていないので、恐らくまだ安全な場所であることに、少しばかり緊張がほぐれる。

生きている人たちを誘導すべきなのか?それともゾンビを誘導して人々から遠ざけるべきなのか?
ゾンビやガナードたちと戦闘を繰り広げたこともあったけれど、ここまで大人数の人間を気にしなければならなかったことはもちろんない。ラクーンシティであれ、島であれ、南極であれ、あの村であれ、どこも二人か三人で行動していた。

『ターミナルビルにいらっしゃるお客様は至急お逃げください!』
「……?」

突然入った放送に訳がわからず、足が止まった。今自分たちがいるところがターミナルビルなのだが、ゾンビのことを言っているのなら、今更感が拭えない。

『近くの出口から至急ターミナルビルの外へ避難してください!』
「ディアナ!!こっちに来なさい!!」

放送とクレアの声が被って耳に届いた。
クレアはラーニー…ではなく、デイビス上院議員を支えて、ディアナに早く走るように片腕を上げて動かしていた。

何故なのか、ディアナにもその原因がわかった。後ろで次第に轟音になってきている音に背筋が震える。
迷わずディアナはクレアの元へと走るが、すぐにガシャーンというガラスが割れた音、飛行機の音、周りの物を巻き込みバチバチと電気がはじける音、そしてとんでもない速さで追突したために、揺れも激しい。足を取られ、床に叩きつけられた。頭上からもバランスを失ってしまった天井の素材がバラバラと降って来る。

ガツンと嫌な音がし、頭が揺れる感触がした。

「ディアナ!!」

クレアが叫ぶ声が白く霞んでゆく視界に消えて行った。





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