同僚からの連絡は相変わらずない。
やはり渋滞に巻き込まれているのだろうか。この様子では警官も出動していそうな感じを受けるのだが。
クレアとラーニーは、たまに言葉を交わしながら大人しくテレビを見ている。

上院議員は空港にいるらしいが、姿は見せない。テレビでは、彼が出るであろうと思われる出口に人々が集まっているから出られないのかもしれない。議員が動いてくれなければディアナたち一般の利用者が困るのだが、仕方がないのだろう。今は連絡をここで待つことしかできない。

携帯電話を確認してみるが、新しく届いたメールはない。同僚もレオンも返せない状況なのかもしれない。それより、先ほどクレアがレオンに送ったというメールの詳細が気になる。クレアは結局教えてくれなかったが、きっとレオンが困る内容だったに違いない。

「あら、レオンからだわ」
「え…」

クレアがポケットから震えている携帯を取り出してメールを確認したらしい。レオンはクレアの方にメールを先に返したということになるのだろうか。
少し胸のあたりがちくりと痛んだ。
メールの本文を見たクレアが吹き出すところを見ながら、「やっぱりクレアとレオンは仲が良いんだなぁ」と少し羨ましくなる。吹き出すということは、それだけ面白い内容ということだ。
ディアナと話すときや接するときは、レオンはどこか一線を引いているような気がしてならない。

(レオンてば…面白い…!)

一方、クレアはディアナの思い詰めたような表情に気付かず、メールの内容にレオンの焦りを感じ取ってほくそ笑んだ。

【ディアナにあまり余計なことを言わないでくれ、頼む…いくらそういうことに鋭くなくても知られてしまうだろ…】

これがあの大統領のお嬢様を救い出したエージェントかと思うと、そのギャップに吹き出さざるを得ない。
ディアナも気付いてあげればいいのになんて無茶なことを思いながらディアナに視線を向けるが、そこにはどこか気落ちした様子のディアナの姿があった。
携帯電話を見て溜息をついたところから見ると、どうもレオンは先にクレアにメールを返したようだ。

(…本当に不器用ね…)

見た目は完璧、エージェントとしての冷静さ、人間としての優しさなど、基本的なことはほぼパーフェクトであるはずのレオンは、本当に女性に対して抜けている部分がある。確信犯なはずは絶対にないと7年の付き合いで分かっているから、きっとこういうことには慣れていないだけなのだろう。彼もまた、ディアナと同じでウイルスやアンブレラさえなければ、普通に人生を送ることができただろうに。それは自分もクリスも全員そうだとは思うけれど。

「ディアナ、心配しなくても大丈夫よ」
「な、なにが…」

レオンがあまりもたついているようなら、無理矢理兄に嫁がせてしまえと思う自分は鬼かもしれない。クレアはそんなことを思った。

ディアナのことを世界一心配している男のことをクレアは良く知っている。言うまでもなく兄のクリスなのだが、同じ幼馴染でもクレアには入り込めない世界が二人にはあるのだ。

「足りないのなら、俺の血を使ってくれ!」

ディアナが10歳、クレアが13歳、クリスが19歳の時だった。
学校から帰って来て、友達と遊びに行くと言って出掛けたままディアナが帰って来ない。この頃、ディアナの両親はラクーンシティの市警として働いていて、当直やら事件処理やらでなかなか自宅に帰れず、レッドフィールド家でディアナは生活していた。
いつも言いつけを守る彼女が帰って来ないとなると、家の中は大騒動で、たまたま家にいたクリスも走り回って捜索に出た。クレアは危険だからという理由で家で待機していたが、常に鼓動が全身に響くほどの緊張状態だった。

捜索が始まって2時間が経過したときに、クリスから連絡が入った。“ラクーンシティ総合病院にいる”とのことだった。クレアは慌ててラクーンシティに向かった。

到着すると、手術室の前まで案内され、クレアは全身の血が凍ったような感覚になった。クリスが椅子に座って祈るように拳を握っていた。

「兄さん…どういうこと…」
「事故だそうだ…」


クリスがぽつりぽつりと話す内容は、ディアナは友達と別れた後、帰り道を急いでいたときに居眠り運転の車がつっこんできてた、運が良く最大限に減速されたところでぶつかったらしいが、出血が酷いということだった。クリスは救急車が呼ばれ、付添の人物を探しているときに到着したらしい。そのまま辺りで一番大きいラクーンシティの総合病院に運び込まれ、現在手術中らしい。

突然手術室のドアが開き、何人かが慌ててクリスたちの前を通り過ぎた。

「…何かあったんですか?」
「輸血の血が足りない!今日は大掛かりな手術を二件やって…それで…」


至極冷静に努めながらクリスが尋ねる。握りしめられた手が、震えている。手術の助手だった人なのか、手術着に血が飛んでいる。それは紛れもなくディアナのもので、クレアの口から思わず小さく叫びが出た。

「…どのくらい足りないんですか」
「あと少しで―――」
「足りないのなら、俺の血を使ってくれ!!」


クリスはO型だ。どうしても血が足りないときなどは、O型からA型への輸血は可能とされている。クレアも自分もと進み出るが、年齢が足りないと引きとめられた。

数時間後に何とかディアナの手術は成功し、数日後には目が覚めて、二週間後には歩き回れる程に回復した。クリスが献血した血は使われたらしく、ディアナの両親は何度もクリスにお礼を言っていたとクレアは記憶している。

それからディアナの身体はおかしくなった。もちろんいい意味でおかしくなったのだが、何せ病気を全くしなくなったのである。毎年流行るインフルエンザはもちろんのこと、風邪にも罹らず、超人的な健康を手に入れたようである。
定期的にラクーンシティ病院へ検査に行く日々が何年か続いたが、調べる度に医師が驚いているとディアナは言っていた。

その情報はアンブレラに流されていたということは、クリスが洋館事件のときにファイルを見つけたことで発覚した。

「クレア!どうしたの」
「…!え、ええ、ごめんディアナ…なに?」
「ラーニーが議員だって…」
「ええ?」

過去を思い出している間に、随分と時間がたったらしい。ディアナがクレアの肩を揺らしたことで初めて気づき、ラーニーが指差す方向を見ると、野球帽を被っているのにスーツという奇妙な出で立ちをした人が歩いていた。その人の両サイドを屈強そうな人たちが固めていて、ラーニーの指に気付いたのか、その手を下すようなジェスチャーを向けてきた。
 





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