解ってはいても止められないところまで来ていたこの気持ちをしまう術なんて生憎私は持ち合わせていなかった。だってもう其処にまで到達していたから。始めて出会ったのは勿論教室。お前等の担任だ、迷惑かけたりすんじゃねぇぞ−なんて初めの挨拶としては最悪なその先生らしからぬ感じに意表を付かれた。何この人ホントに教師?、と思う反面興味を持ったというのも正直な感想で。でも此れが何を差すのかなんて気付きたくなかった。否、気付いてはいけなかったのだ。

普段通りに登校した学校。教師というものは本来煙たがられたりするもののはずなのに、少なくとも私の辞書へはそう記載されているのに、その人は何故か何時でも生徒に囲まれていた。教師らしくない。此れは誉め言葉。それから少しの嫉妬。彼が其処に居ると知っていながらも見知らぬ振りをして通り過ぎようとした。

「オイー名前!おまっ、無視か、無視すんのかぁ?!」

其の言葉に、あ、向こうも私に気付いてたんだ、と素直に嬉しく感じたが、でも其れを表立って見せられないのが私で。

「あ、居たんですか先生、おはようございます。じゃ」

早々と其の場を立ち去ろうと足を進めれば、腕を引かれ其れを阻止された。

「待てっつ−の。お前ホント素直じゃねぇのな」
「ちょ、銀ちゃ、反感買うだけだから止めてよこういうの」
「関係ねぇだろうが周りなんてよ。良いから来いって言ってんの」

この強引さに反論しつつもこのままどこかへ連れ去ってくれれば良いと願う私の心は本物。其れまで彼を取り巻いていた生徒達の騒ぐ声さえも嫉妬を掻き消すに十分なものだった。


押し込まれるように入れられた国語科準備室。一歩足を踏み入れただけで先生の匂いを拾える其処。煙草の匂いと何処か甘さを持つ。

「あんなあからさまに避ける事ねぇだろ、銀さんの繊細なハートがズタボロだぞコノヤロー」

ピシャンと戸が閉まる音に次いで耳元から聞こえてきた低温の心地良い声。あぁ、私にはもう逃げ場なんて用意されてない。後方から抱き締めるこの腕に自分も手を添えそう思う。

「――先生。」
「銀ちゃん、だろ?」
「学校じゃ呼ばないもん」
「さっき呼んだじゃあねぇか」
「そ、それは、皆の前であんな事するからビックリして」
「名前。」

遮るように名前を呼んだら私を向き合う形にする彼。この真っすぐな視線、其れに対して私が目を逸らす事なんて出来る訳がなくて。

そっと降りてくるその唇に、腕に納められる暖かさを感じながらゆっくりと目を閉じた。




不釣り合いなくらいが丁度良い
(子供な私、大人な貴方。素直になれない私、素直にさせる貴方)




100521 憂安


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