ねぇ銀ちゃん、今日すっごい良い天気。こんな日は外に出ないと損だと思わない?たまには健康的に目的地もなくただ歩いてみるのも良いし、あぁほら最近出来たあのショッピングモールに行ってみようよ。ちょっと遠いけど確か中に入ってるあのお店のスウィ−ツは美味しいっていう噂よ。ねぇ銀ちゃん、銀ちゃんったら。

さっきからアレコレ言ってくるコイツに目も向けず、何時もの様に特等席に腰掛け両手は頭の後ろに組んだまま窓の外へと視線を投げる。
あぁとかうんとか適当な相づちを繰り返しながら言葉のとおり上の空で、頭を掻いてみたり脚を組み直してみたりとそれ以上の事はしなかった。

「ねぇっ!銀ちゃんってば!」
「うっせ−よ!そんな叫ばなくても聞こえてるっつ−の!」
「だったらこんなに声張らせる前にもっとまともな返事してくれりゃいいじゃない!」
「いちいち気分屋に付き合ってたらキリねぇんだよっ!つ−かテメェ名前今日は何の日だと思ってんだよチクショ−っ」
「男が誕生日忘れられてるくらいでグダグダ言わないのっ!」

まぁ、そもそも忘れてなんてないんだけどね。付け加えられて驚き気が抜けた俺が浮かべた表情を見るなりフフンと得意気な笑みを浮かべるコイツに些か腹も立ってくる。

「お前解ってんならもっとこう何かねぇの?折角ガキ共もいねぇってによォ。まだおめでとうの一言すら…って別に良いんだけどなっ!こんな年になりゃ別に嬉しくもなんともねぇしっ!名前からのおめでとうのチュウが欲しいとか別に思ってもな「とにかく!出かけませんかっ」
「って、人の話全っ然聞いてねぇし!」

だからねっこんな良い天気なのに引き籠もるなんて勿体ない!って、さっきからソレばっか。
いい加減呆れ会話を諦めた。解った解ったもういいわ、オメーはそういう奴だ今も昔も変わらねぇな名前コノヤロ−!と立ち上がって見せれば名前は嬉しそうに良いから良いからと俺の背中を押し外へ連れ出した。


「で?何処行くっつ−んだよ」
「さぁ。」
「ああ?!」

話せば話すほど、どんどん苛々を募ってきてんのは自分でも良くわかる。それでも歩みの遅いコイツの歩幅に合わせて歩いてやればへらっと締まりのない笑みを返して来て、あ−あ、家でノンビリしてぇなぁと面倒臭そうに言えばそっと手を取り繋いでくる名前は不本意ながら可愛くて。機嫌悪くさせられながらも、そんな不機嫌の根源である名前に一瞬驚いた顔をしたあとで微笑みかけてしまう。しょうがねぇなぁと言いながら、きゅっと握り返してしまう。ホントは自分が繋ぎたかった癖に−なんざ言われてバッカお前っんなわけねぇだろがって言いながら俺は決して手を離そうとはしないんだ。

「ね、」
「ん?」
「やっぱり行こうか、あのスウィ−ツ食べに」
「あのって名前がさっき言ってた?」
「うん」
「おまっ、それ反対方向だろうがっもうだいぶ来てんぞ?」
「気が変わったのっスウィ−ツ食べたい!ケ−キ!パフェ!」
「いや無理だわ、完璧に心が折れたわ。だいぶ秋らしくもなってきたしよ、寒いわ色々と。」
「一番寒いのは銀ちゃんの財布と頭の中でしょう?はぁ−どちらも残念すぎるその天パも非常に残念すぎる」
「お前さ、その腕に擦り寄る甘い行為と発言にギャップがありすぎんだけど。ギャップ萌え狙いか、萌えねぇんだよコッチはさっきからボロボロなんだよ癒せコノヤロ−」
「はぁ−萌えとか何とか発言もオヤジだしもうホント色々残念過ぎる」
「お前俺の誕生日祝う気ねぇだろ」

それでも俺とは相反してご機嫌な笑顔浮かべてる名前を見てりゃ、まぁ良いか(若しくはもういいわ)と思えてくる俺も俺だと思った。

目の前に広がる人の混雑した路や眩しすぎる太陽。何ら変わりないようでいてもそれでも空や風の温度は確実に秋の到来を告げていて。ふと目についたケーキ屋の様子を見りゃあの制服着てみたいだの、可愛げの溢れるショップで働いてみたいだの色んな夢を思いつくまま口に出す彼女に、へぇ−良いんじゃねぇのと俺も適当な返事を繰り返す。そうやってもうどのくらいの距離を二人並んで歩いただろうか。


「そうだ、今度あの船に乗ろうよ」
「あ?」
「見て、上、」
「あぁアレな、お前いくらかかると思ってんだよ俺ァ金ねぇぞ」
「む−…。そうだ、晋助がね、」
「!」
「銀時に飽きたらいつでも来いって言ってたし、鬼兵隊の船に乗せてもらおうかな」
「…は?」
「この前電話が…、そうだ辰馬もこの前帰ってきた時にね、宇宙に連れてってあげるって言ってくれた。私みんなから愛されてる−。あ、でもそしたら私万事屋にも暫くバイバイになるのかも?辰馬なかなか帰ってこないもんね」

にこにこと朗らかな彼女とは打って変わってどんどん青冷める俺。なんだって?アイツ等名前を誘っただと?しかも高杉の野郎が電話なんざ…

「駄目だ!」
「え?」

流石に此れには声を荒げた。冗談じゃねぇよ昔からお前を巡ってどれだけ俺たちは。妹的な存在だと口ではそう言いながらも本心ではどうだったか、名前に対してそれとは違う感情を抱いてる俺だからこそあいつらの事だって手に取るように理解できた。あの日、私は銀ちゃんと行くと言ってくれたコイツの言葉がどれだけ嬉しかったか、名前はちっとも解っちゃいない。

「ぜってぇ許さねぇンな事ァ。お前無事で済むと思ってんのか?!帰ってこれねぇとかそういう問題じゃねんだよ。俺ァ認めねぇっ」

足を止め繋がれた手を些か強引に引き向かい合わせれば荒げた俺の声に、名前は心底驚いた顔をしたが、直後に、ふわりと笑ってみせた。

「…何笑ってんだよ、」
「息を吸って、」
「あ?」
「そして吐いて、また吸って、吐いて…。ただそうやって繰り返してるうちにそれだけじゃ何だか物足りなくなってきちゃってね。でもね、小さな夢が何度も何度もたくさん浮かんでは消えていくのは、本当は、これ以上何も要らないからなんだよ」

キュッとつないだ手に力をこめる名前。
これだからコイツは狡い。此処ぞというときには決まってこういう事を言ってのける。いとも簡単に曝け出してくる。そして、何処までが本音で何処からが何時もの気紛れなのか俺なんかが測れるそれではなくて、その言葉をそうかいと受け入れざるを得なくなるのだ。
夢を見ることを拒み忘れてしまった俺にとって名前という存在はまさに失った夢そのもののようにさえ思えて、コイツがそういうのであればソレが全てなのではないかと思わせられたりもした。だってそうだろう?俺はかつてこんなに倖せそうに顔を綻ばせる奴を見たことない。そして、コイツにそんな顔をさせてるのが俺だと思えばこれ以上の満足感なんて他にはないのだ。

「…。なんて、ぜってぇ言ってやらないけどなっ」
「は?どうしたの?」
「べっつに−」
「変な銀ちゃん」
「オメ−の方が何倍も脳内どうかしてるわ」
「いや、銀ちゃんの天パの方が宇宙代表クラスだよ一体何があったのその頭に」
「さっきからアレだな、何で天パにつっかかんの、何かした?この頭がオメーになんか迷惑でもかけたってのか?」
「抱き締めて眠ったらふわふわふわふわ擽ったくて眠れない。私最近不眠症」
「とか言ってっけどよ、昨晩寝返りの時に見事な回し蹴り決めたのは何処のどいつだよ。俺あれから寝付けなかったんだけど」
「知らないソレ私じゃない。何処の女と勘違いしてるの?酷い、銀ちゃんったら酷い!浮気してるのね!」

顔を覆って大げさに落胆してみせるコイツ。こんな道の真ん中で勘弁してくださいホント頼みます300円あげるから!慌てて宥めりゃそっと既に綻んだ顔を上げ、また腕にきゅっと抱きついてくる。涙は女の武器とか言ったヤツは何処のどいつだ、そんな言葉言い出したヤツに俺は今猛烈に回し蹴りをお見舞いしたい。

俺があげると言った300円で何か美味しい物食べようとコンビニに引っ張り込まれた。名前が手に取ったのはイチゴ牛乳のパック2つとチョコレートのお菓子。締めて408円、全然300円に納まっちゃいない。でもその内の105円は銀ちゃんの分のイチゴ牛乳だから!って、ソレ引いても結局納まっちゃいね−じゃねぇか。言えばたった3円でちっちゃいなぁと言われたが気にしない。3円を笑う者は3円に泣け。俺が3円を稼ぐためにどんだけ頑張ってたと思ってんだ、あの炎天下でプ−ルサイドにも座ったし、説教だってたれてやるわ存分になっ。そして来年の夏こそは仕事なんかじゃなく名前と一緒にプ−ル行ってウフフ−アハハ−って戯れて、水飛沫に負けないくらいキラキラしたお前の笑顔を目に焼き付けんだ。何なら海も良いな、白い砂浜とか最高だろビキニ楽しみにしてっから。何ならもう布の面積すげ−狭いヤツが良いな、あ、でも他の野郎共に見られるってのはいただけね−な。途中から妄想酷い?うるせ−、気持ち悪いなんて言うな、銀さんこう見えて繊細なんだからなっヘコむっつ−の!

はぁ−、そろそろ認めるわ。何だかんだ言いながらも俺の頭ン中は名前で埋め尽くされてるらしい。だから、こうやって、これから訪れる冬も、春も、今過ぎ去った夏を来年また迎える時も、お前としょうもない話しながら過ごしていきたいなんて、そんな事を思ってたりするわけだよ銀さんは。でも名前は、

「私はね、今日という日をずっと思い出せるように、あの年の銀ちゃんの誕生日は凄く暖かかったって、この風や日光の優しさも銀ちゃんの手の温もりも全部思い出せるように、今しかないこの瞬間を覚えていたい。」

一日一日、一分、一秒を、大切にしていたいよ。と、俺が想ってたそれらを覆すかのようにそう言う。

漠然と名前との未来を望んでいる俺。現在の一瞬一瞬を大切にしたいと言う名前。
違っているようで、根本的なところは同じだ。と願いたい。


「銀ちゃん、好きだよ」

不意討ちでそんな事いう名前に、繋いだ手からずっと伝わってらぁ、しつけ−んだよと、照れ隠し。私には伝わらない、銀ちゃんも言ってと言われたところで、催促されりゃ言いたくない。
でも、言わないとケ−キあげないから、お家戻ったら冷蔵庫の中のバ−スデ−ケ−キ私一人で食べてやるんだからと言われて、何時の間に?とかあるなら早く出せよ!とか色んな事が浮かんだが、取り敢えず謝って、そっと耳元で囁いた。

「さんきゅ−な、名前」
















ありがとうなんて陳腐な台詞しか言えないけれどそれでも云わせて下さい
貴方に出逢えて世界はこんなにも愛おしいものなんだってことを知ることが出来たのだから



101018 憂安


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -