名前−と私を呼ぶその声に、ん−…と気のない返事をしたら昨日の利央くん話は聞かね−の?と続ける準太にさっきと全く同じ返事を。軽く溜め息を吐いた彼は前の席の椅子を目一杯引いて跨ぎ机に突っ伏してる私と同じポ−ズをとった。

「何ですか準太くん」
「名前の真似」
「ちゅ−出来そうなくらい近いんですけど」
「じゃ、しときますか」
「何言ってんのっ」

他で見た事のない俊敏さで上半身を起こした私の真っ赤な顔を見て名前が言ったんじゃんと爆笑する彼、これは嵌められたと思った。でもそうやって彼のペ−スに巻き込まれながらも、私そんな準太が大好きだよ−と言えば、あぁ俺も名前が大好きだ、と返ってきた。ふわり柔らかい微笑みと一緒に。

「「…」」
「準太には素直に言えるのにな」
「言ってやりゃ良いじゃん。」
「や、今の深い意味は…」
「アイツな、名前があんな露骨に避けるからショック受けてて大変なんだぜ」
「――避けたっていうか、もっとちっちゃいと思ってたんだよ。なんか子犬みたいじゃんイメージ的に。だからまさか…、」
「あんなに男らしいと思わなかったって?」

少しの沈黙の後に、まぁ…と曖昧に言えばふ−んと彼。大して興味もない癖にどうして色々言ってくるかな、なんて思ったけど、

「可愛い後輩が心配?」
「いや、まるで妹のような名前が心配」
「誕生日、私の方が先だよ」
「そこは気にしない。自分の後輩にかっ攫われんだぞ、たまったもんじゃないよ」

ムッとしてみせる彼は、ただのクラスメ−トや異性の友達と呼ぶにはあまりに深くて、恋人と呼ぶには大切な何かが足りないようで、それでいて心地よい拠り所で在ってくれる。私はそんな彼に甘えすぎだなって思った。

「名前、今日の放課後は図書室?」

テスト前はそうやって勉強してる私、うん何時も通りだよと伝えれば、程々にな、とだけ言って頭をクシャッと撫でてくる。

「あ、さっきのな、本気に取ってくれてもいいよ」
「も−、部活遅れるよ−」

恥ずかしくて無理やり送り出そうとすれば、そんな私を見て笑った準太は、はいはいと言いながら教室を出ていった。


でも、勉強しようと思ったのに着席し特定の出来ない何処かを眺めてるだけで何も手に付かないこれは準太のせいだ。
そして、背中から呼ばれた先輩というこの声も、絶対に準太のせいだ。

振り返る事も出来なかった私のこの態度、気を悪くさせちゃったかなと思ったけどそれどころか相手からすみませんと謝られてしまって、此れには流石に私も耐え難くて振り返る。

「ちょっと待って、何で謝るの」
「俺、あの、準さんから名前先輩此処だと聞いて、来ちゃいました」
「…」
「すみません本当に。でもどうしてもスッキリしなくて。俺、何で嫌われてるのかなってどうしても聞きたくて、」

開いた口が塞がらなかった。謝罪も、理由を求めてここに出向く意味も、それこそ私には疑問でしかない。でも一生懸命に言葉を紡いでるように見えるこの子の弱気な一面は当初のイメージどおり小さなワンコのようで何だかとても可笑しくなってきて。我慢せずに笑いだせば、なんすか−と顔を赤くするから余計に笑いが止まらなかった。

「ごめん、何でもないよ。それに嫌いとかそんなんじゃないから気にしないで」
「それにしては露骨だったじゃないですか−」
「違うんだって本当に。その辺は準太から聞いてないの?」
「何も、」

だって準さん肝心なことは何も教えてくれないんですよ、と拗ねて見せる彼はやはり可愛らしかった。

あの時騒いでたそのまんまなんだけど、背の高さに驚いただけで。と言えば、え、背…スか?と自分の頭に手を当てて少しキョロキョロと辺りを見回し、じゃあコレでどうですか立ってるよりマシでしょう?と私の隣の椅子を引き腰を下ろした彼は良い事考えた!とでもいうように目を輝かせるから、私はまた笑った。きょとんとしてる彼に利央くんって子供みたいだねと言えば、ガキ扱いはやめてくださいよと表情をころころ変える彼。

「しょうがないなぁ。準太は人をからかう事が趣味のような人だからアレだけど、私は準太と違って優しい先輩だから。なんでも聞きなさい!」
「良いんですかっ」
「うん。そんなね、肝心なところ勿体ぶるとか姑息な事しないから」
「じゃあ、名前先輩の携帯教えてください」
「ごめん私携帯持ってない」
「目の前にあるコレはなんスか」
「あ、」
「も−何なんすかっ!準さんもアイツ携帯持てねぇ可哀想な子だからなんていって教えてくれなかったし」

私達を似た者同士だと言う彼。そんな事ないよとゴメンを一生懸命伝えながら、準太ったら本当に嫉妬してくれてたのかななんて救い用のない自惚れを、今だけ、今だけ。

「ごめんごめん、あのね、あんまりメールとか忠実に返す方じゃないし、アレかなぁと思って」
「面倒ってでしょう?」
「うん」
「俺泣いて良いっスか」

普段私をからかってくる準太には腹も立てていたが、からかう面白さというものを初めて知った気がした。


「じゃあ先輩。俺が携帯番号当てれたら、メアドも教えてください」

突然のこの申し出。普通に当たる訳がないだろうと、この子はちょっとバ…、いや、出来るものならやって御覧なさいと思った。

「無理に決まってるのに。良いよ、約束する」
「やった!絶対っスよ!」
「うん」

じゃあまず携帯で電卓を開いて、と、言われた通りにそうしたら。

「で?」
「まず上4桁を入れて、」
「ん?…うん」
「×250をして、」
「うん」
「×80」
「うん。」
「そして、下4桁を2回足して」
「2回足す?そして?」
「イコ−ル、何でしょう。」
「え?147………、って何これ訳解らないめちゃくちゃな数字並んでるだけだよ?残念でした−」

携帯を見せ適当に言ってたんでしょうと笑いながら言えば、あれ?おっかしいなぁ…と言いつつも彼が自分の携帯を取出し操作すると震えて着信を知らせた其れ。

「!」
「なんちゃって!俺の勝ちですメアド教えてくださいね名前先輩!」

携帯画面の登録外ナンバ−と彼の勝ち誇った笑顔とを見、どうして?と叫んだところでさぁ何ででしょうねと教えてはくれなかった。

約束だったし…とメアド交換すれば、毎日おはようやおやすみのメ−ルしますから!と笑顔の彼。私返さないよと言ったけど、良いですよ寂しくなったら電話かけますからと言う。

「電話も出ないよ?」
「嘘ばっかり」
「は?」

手元でコールを知らせる携帯、発信者は紛れもなく耳に携帯をあてた目の前のこの子で。
仕方ないから手中で震え続けるそれの通話ボタンを押すと、

「きっと出ます。名前先輩は出てくれる」

何を根拠にと思ったけど、でも、可愛い笑顔を浮かべるこの子をきっとこんなふうに甘やかしてしまうんだろうなぁと思った。












残ったものと増したもの


100529 憂安









:)あの計算は最後に÷2をすると番号が表示されるのです。お試しあれ^^


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