「良くもまぁ飽きもしないものね」
「君の言わんとしている事がいまいち良く解らないんだけど、」
「そんなの、アレに決まってるでしょう」


校庭で何処の輩とも解らない人の群れを蹴散らす静雄を屋上から眺める背中に言った。

背中の主の顔さえ直視することは出来ずとも、揺れる肩で私の言葉に笑っている事だけは解った。

「だって、面白いじゃないか。シズちゃん一人で一体何人の相手してるの?あぁ、ざっと数えるのも面倒だ」

高笑いを始める彼の背中へ近づき、私も校庭へ視線をやった。


「静雄の何がそんなに気に食わないの」
「さぁ。それに答える意味も利益も俺には見いだせないなぁ。でも、理由は解ってるよ、苗字名前さん」
「?」

正直驚いた。私は高校の三年間、彼と同じクラスになった事はなくそれ以前も当然の如く接点があった訳でもない。特に目立つ生徒という訳でもなく、彼に名前を知られているなんて想像もしていなかった。

「何不思議そうな顔してんの?知ってるよ、君の事くらい全部ね。そう、全部」

言った彼は、生年月日、身長体重といった類のプロフィールから家族構成、出生地、成績、性格と、ありとあらゆる私についてのデータを言い並べ、

「そして、アイツの。平和島静雄の所謂彼女ってヤツだろ?」

此方を直視した。

「そんな君がこうして俺の前に現れたのは、差し詰めアレを止めてくれてないかという申し出の為だろうね。」
「…。そこまで解ってるなら、今後」
「その引き替えといったらなんだけど、君が俺の物にでもなってくれるというのなら、考えてあげないこともないなぁ」
「は?」

何を言いだすのかと彼の発言を含め話の筋を追う私の頭に過った一つの可能性。

「その代わり、金輪際シズちゃんと関わる事は勿論口を利くことすら許さない。そしたら彼は解放される。どうする?」

赴ろに立ち上がった彼が気付けば不自然な距離にあって、私の顎を掬い交わらせる視線は強く痛い程で。でも口角を上げるこの笑顔を、初めて見た時から私は心底好きになれない。

「それを信じる根拠がないもの。きっと貴方は繰り返す。私という都合の良い手駒を手に入れたのなら尚更。」
「あははっ、君は賢い。流石は首席だね。何でそんな君がアイツの傍になんか居るんだろうね、不思議でならないよ。」

背を向け歩みながら両手を広げオ−バ−アクションで言う。ホント、嫌んなっちゃうよね−と少し戯けて見せた。


「本当に欲しいものは手に入らない。それでもこうやって傍観する楽しみくらい存分に味わわないと、それこそ生き損だと君は思わないかい?」

言った彼が笑ったその表情には、初めて目を奪われた。


「さぁて、下も片付いたようだし、そろそろ俺も行動しないとあの化物に捕まっちゃうと厄介だからね。」

校庭から此処を見上げる静雄の威嚇を拾ったその時、くるりと方向転換し扉に向かい歩きだした彼を私は只黙って見ていた。

「君との会話は思いの外面白かったよ。また俺に会いたくなったら何時でもおいで。それから、さっきの取り引きについても検討しておくと良いよ。俺は何時でも応じてあげるからさ」

反論する間も与えずに、じゃあね名前ちゃんと言い残し、建物のなかに姿を消した彼は本当に狡い。





私の伸ばした手を払いのけたようにあの男は世界を壊すのだろうか。その時残骸の眠る世界はあの男を愛してくれのか癒してくれるのだろうか。何もかもを失った世界で独り何を想うのだろうかと瞳を閉じて想像する。

壊して壊され最後には世界すらも裏切り裏切られることを知ってそれでも全ての代償に傷つくことでしか生きられない。
嗚呼、なんて馬鹿な男なのだ。












それを恋と呼ぶには酷く拙い


100915 憂安


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