<自由人>
まだ昼前だというのに、船では宴が開始された。テーブルの上に並ぶ色鮮やかな食事と、世界中のお酒を囲むように3人は座る。
嬉しそうに食事に手を出す名前に、静かにお酒を愉しむミホーク。そして名前に見惚れながら、鷹の目の様子を伺うシャンクス。
「それで、あの時さ...。」
「あぁ。」
名前がいろいろと話してくれるのだが、頭が働かない。ミホークが本当に誘ったのか、気になって仕方がなかった。クリスマスに女を誘うということは、つまり気があるということだ。
まさか鷹の目も名前が好き?いや、鷹の目に恋愛感情という繊細なものが備わっているなど、全くもって想像がつかない。
「もう!シャンクスさっきから生返事ばっかりね。ちゃんと聞きなさいよ。」
「っ、悪い。」
「ったく。いつもみたいにプレゼントも持たないで、一体何しに私のところに来たのよ。何か変よ?」
鷹の目にとられたくないから、急いで来た。なんて本当のことを言えるわけがない。だけど、黙っているだけでは駄目だ。
思いは伝えなくては何も始まらない。
「もうすぐクリスマスだろ?25日...っ。その日を俺にくれ。」
必死に声をだした。声が震えている?顔が赤い?そんなことはどうでもいい。
昔からずっと誘いたかった。でも、名前が好きすぎて言えなかった。関係が壊れてしまうことが怖かったんだ。
そんな俺がやっと言えた言葉。
「え?25日?ダメよ、その日は。ミホークと約束したんだから。」
心が砕け散ったような、とても強い衝撃を受ける。体中の力が抜けてしまったかのように、シャンクスはテーブルの上に伏せた。その目にはうっすら涙が浮かんでいるようにも見える。
「どうしても駄目なのか...?」
「そんな顔してもダメ、順番。ミホークより先に誘いに来なかったシャンクスが悪いのよ。」
名前は呆れたように大きなため息をつく。
(そんな目で私を見ないでよ。)
そんな目をされては、ほっとけなくなる。けれども、ミホークと約束したのだ。今さらシャンクスに誘われたから、無かったことにしてくれなど言えるわけもない。それも目の前で。
「あーお腹いっぱいになったら、眠くなっちゃった。私、部屋で少し休んでくる。船の中は自由に移動もしていいし、二人で話でもしてて?」
逃げるように名前は部屋を飛び出すと、パタンと音を立てて扉が閉まった。今、この部屋にはシャンクスとミホークの二人きりだ。静かな沈黙を破るように、シャンクスが口を開く。
「なァ、鷹の目。ほんとに誘いに来たのか?」
「嘘をつく必要は無い。」
「頼むからっ!その日は俺に譲ってくれ。」
「何故だ。」
突き刺さる視線が痛い。一体どうすればいい?ここで鷹の目に、名前が好きだったんだと伝えるか?でも、もし鷹の目も名前のことが好きだったら?
「いや、あの...その...だな。」
「フッ、貴様らしくもない。情けない姿だな。まぁ、いい。」
「え!それって!!」
「考えている通りだ。」
*
「ん...んん...。」
小さな欠伸を漏らす。ああ、そう言えば自分は寝ていたんだった。あれからどれくらいの時間が経ったのだろう?シャンクスとミホークの二人はまだ飲んでいるのだろうか。
名前はゆっくりと先程の部屋に歩みを進めた。
扉を開き中を見渡すと、テーブルの上には空き瓶がいくつか転がっていた。ミホークの姿が無い。シャンクスは寝ているのだろうか?テーブルに伏せたまま、ピクリとも動かない。
「寝ているのかな?」
静かにシャンクスの顔を覗きこむ。長い睫が目に入った。どうやら寝ているみたいだ。何かいい夢でも見ているのだろうか、彼の口角が上がっている。
「喜んだり、泣きそうになったり。シャンクス、貴方はいつも自由ね。...だから、好きなんだけれど。」
そっと髪の毛に触れる。こんな風に触ったのは久しぶりだ。
いつから遠い存在になってしまったのだろう。3人で一緒に刀を交えた日々はとても楽しかった。
互いに成長した今では時々、プレゼントを持って会いに来てくれることがとても嬉しかった。そのたびに何度、この思いを伝えようと思ったことか。結局、勇気が無くて未だ言うことができない。
「好きよ、ずっと昔から。貴方のことが。」
「...名前?」
後ろから名前を呼ぶ声が聞こえた。名前はシャンクスの頭から手を離し、勢いよく後ろを振り返る。
「ミホークっ!!」