<もうすぐクリスマス>

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船の上で電伝虫が鳴り響いた。
四季折々の島が点在しているため、身体では実感しないが、暦の上ではもうすぐクリスマスを迎えようとしている。暖かい気候に身を委ね、気持ち良さそうに昼寝をするシャンクス。その赤い髪が風になびく。
そこにバタバタと足音が近づいてきた。

「お頭っ!起きてくださいよ、電伝虫がっ。」

「...んあっ!?」

「置いていきますからね!」

そう言って頭元に置かれた電伝虫は、大きな音を発し続けている。シャンクスの寝ぼけた頭を起こすには十分だった。重たい瞼を擦りながら、その受話器をはずす。

「ようやく出たか。」

「た、鷹の目っ!?」

「相変わらず五月蠅い奴だ。」

「お前から電話なんて珍しいな!どうしたんだ、急に。」

聞き覚えのある、懐かしい声だ。久しぶりだということもあり、シャンクスの声が明るく響き渡る。筋肉が弛緩して、自然とほころぶ頬。だが、次に発する鷹の目ミホークの言葉がシャンクスの表情を一変させる。

「もうすぐクリスマスだからな。俺は名前を誘うつもりだ。邪魔するなよ。」

「っな!?お、おい!!どういうことだ、鷹の...」

ガチャン。その後に続く言葉を全て言い切る前に、ミホークからの電話は切られてしまう。

「名前を誘う、だと?」

ポツリと小さく呟いた。その表情はどこか焦りを覚えたようにも見える。すぐさま身体を起こすと、シャンクスは船の甲板、中央部に走り出した。

「野郎ども!今すぐ行き先を変えるぞっ!!」





ズズズ――ッ。シャンクスの手のひらに置かれた、小さな紙切れ。それは明らかに目の前にある大きな船を指し示していた。名前の船だ。

シャンクス、ミホーク、名前の三人は古くからの顔馴染みだった。ただがむしゃらに前に進み、3人でよく刀を交え合ったのは、つい最近のことのようにも思える。

「合図を出せ。」

船員の一人が小さな鏡を取り出して、太陽光をリズムよく反射させる。すると目の前にある船も同じようにキラリと何度か光が発せられた。「よし、行くぞ。」とシャンクスは嬉しそうに微笑む。そして、そのまま船を並べた。

「おーいっ、名前ー!!」

手を大きく振りながら、嬉しそうに名前の名前を呼ぶ。それを何度か繰り返すと、名前の船の扉が音を立てて開いた。

「1回呼べば分かるっ!」

シャンクスの期待とは裏腹に、飛び出してきた女はキッと彼を睨みつける。
だが、シャンクスはそれが嬉しかった。

(相変わらずだ。)

「また来たの、シャンクス。」

「あ、ああ。」

「今日の用は何?また何かプレゼントでも持ってきれくれた?」

そう言って彼女は笑顔を振りまく。その笑みに見惚れたと言ってもいいだろう。シャンクスの言葉が詰まる。

(可愛い......っ!)

「いや、今日はプレゼントは無いんだ。ただ...。」

もうすぐクリスマスだろ?その日を俺にくれ。
ここへ来る前に船の中で何度も練習した、この台詞。名前に伝えようとするのだが、喉のどこかに引っかかっているのか、なかなか出てこない。

緊張に弱い?いや、むしろその逆でシャンクスは緊張に強いほうだ。そんな彼が言えないことには理由があった。

名前が好き。それもずっと昔から。

「ね、早く言ってよ。」

「えっと、いやーその。」

「男でしょ、ハッキリしなさい。それにしても、今日はお客の多い日ね。」

シャンクスの目が大きく開く。彼の頭の中に、数日前の鷹の目とのやりとりの一部始終が蘇った。

「まさか...。」

「ねー、こっちに来て!シャンクスよ。」

名前は後ろの扉に目線をやった。そして、そこから鋭い鷹のような目をした男がゆっくりと姿を現す。あの電話は本当だったのか。思わずシャンクスは声を荒上げた。

「鷹の目っ!!ほんとにお前はっ!」

そんな彼とは対照的に、ミホークの顔の筋肉は一ミリも動かない。ただ怪訝そうな顔で、シャンクスを見つめるだけだ。
名前の腕がミホークの腕に伸びる。

「クリスマスデートのお誘いをしに来てくれたんだよね!」

力いっぱい抱きしめるように、ミホークの腕に名前の腕が絡みつく。そこに触れている胸の膨らみに目が離せなかった。

「そうなのか?」

「人の勝手だろう。あまり騒ぐな、酒が不味くなる。」

「いいじゃない。せっかく3人そろったんだもん、みんなで飲もうよ。シャンクス、おいでよ。」

なァ、名前。
どうしてそんな嬉しそうな顔をするんだよ。お前はもしかして鷹の目が好きなのか?

クリスマスは俺と一緒に過ごしてくれ。





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