<駆け引き>
「どけ。」
ローは名前の腰に手を当てると、下に降ろした。そして、おもむろに立ち上がるとカウンターのほうへ向かう。空になった空きビンに目がいった。
「...ヤケ酒か?」
「馬鹿なこと言わないで。」
おぼつかない足取りで、名前は向かってくる。が、ローの前で大きくよろけた。「危ねェ。」と腕を抱え支えるが、それもすぐさま反転する。名前がローを大きく引き寄せて、押し倒したのだ。
「...名前?」
「貴方なんか大嫌いっ!!」
両手に作った拳で、何度もローの胸を叩く。その身体が揺れるたびに、ローの服に小さな染みが広がっていった。
ポタポタと流れる涙。そこにいつもの気丈な名前はいなかった。
ただ一人の女がそこにいた。
「素直になれよ。」
「大嫌いよ!」
「...俺のことが好きなんだろ?」
その言葉に名前の身体が大きくはねた。スッと伸ばされた指は、名前の頬を捕える。酒の力もあるが、溢れだした思いを止めることはできなかった。
「ロー...っ。」
名前は噛みつくように、ローにキスを落とす。ぴちゃ...と互いの唾液が混じり合う音が部屋に響いた。時々もれる吐息が二人の脳を刺激し、快楽という波が二人を襲う。
名前がドレスの肩ひもに手をかけた。
「それ以上はやめろ。」
「どうして?そうよ、好きよ。貴方のことがいつの間にか...。」
本当はすぐに抱いてしまいたかった。でも今は。
酒に溺れたお前を抱いても、すぐに忘れてしまうだろう?遊びならそれでいい。でも、遊びじゃねェんだ。
名前、お前が欲しい。
「...俺も我慢してるんだ。」
ローは名前を抱き抱えると、ソファの上にそっと降ろした。そしてこれでも飲めと、冷たい水を渡す。
それを飲み干すと、少しだけ酔いがさめた気がした。
「どうしてここにいたのよ。」
「まだ答えを聞いていなかったからな。取り込み中だったんで、待ってたら寝ちまった。」
「...馬鹿な女だと思ってるんでしょう。」
「俺におちない女はいねェよ。」
傲慢な男。そのどこまでも続く自信過剰さに名前は負けたのだ。ここまで来ると、女のプライドだとかそんなものはどうでもよくなってくる。
「ねぇ、抱いて。」
潤んだ瞳で、ローを見つめた。酒の香が漂う。
「酒に溺れた女は御免だ。」
「...私の誘いを断った男は初めてよ。」
「もう寝ろ。」
これから何度でも、その身体に俺を刻み込んでやる。だから今は、眠れ。
ローは、自分の腕の中で目を瞑る名前の頭をそっと撫でた。
Fin.