<本懐>
俺は寝る前の記憶を頼りに、あいつの部屋へ向かった。今まで自分から行ったことは、一度もない。俺はあいつが怖かった。
ガタ――ッ!!
もう少しで着くというときに、あいつの部屋から何か音が聞こえてきた。嫌な予感がする。
これでもかというくらい痛い胸騒ぎに耐えながら、残りの道のりを走った。少しでも早く着くために。
「ハァ、ハァ...名前さん。」
部屋に着いた俺は目を疑った。荒れた家具。開け放たれた窓では、カーテンが大きく舞っている。
(何があったんだ...?)
目を疑いたくなるような光景。それはすぐに目に入った。あいつに首を絞められて、宙に浮かんでいる貴方がいた。
「...名前さん?」
そっと呼びかけた声に気付いたのか、ドフラミンゴの視線がこちらに向けられる。
「なんだ、ローか。」
どうでもいい、というような冷たい声。自分が何をしているのか、分かっているのか。
「一体何をして...。」
「ロー、来ちゃダメ...ぐっ。」
ドフラミンゴの腕の血管が浮き上がる。名前さんを締め上げていることは、すぐに分かった。
「名前。お前は俺を裏切った。」
「......ぅ。」
「残念だが、ここでお別れだ。」
「...ド、フィ。」
あいつを見つめる目。それは最後まで、俺を見る目とは違っていて。
どうしてそんなにも、あいつが。どうしてそんなにも愛していたの。俺じゃ駄目だった?ガキだった?
「っ、ロー...」
そして貴方は俺のほうを見た。俺は何度もあいつに、やめろと懇願したけど、あいつはやめなかった。けど、貴方もそれを望んでいるように思えた。
「ロー...」
大きく揺れ動きながら、俺のほうに伸ばされた手。名前さんの目から涙がこぼれ落ちた。
「名前さんっ!!」
「ど、うかお願い...。い、つか...貴方の手で...。」
その言葉を言い残し力無く、貴方の白い腕は重力に引かれるように落ちた。
「嫌だ!名前さんっ!!!」
*
あれから13年。ただ強くなることだけを考えて、お前を倒すことだけを考えて。ようやく舞台は整った。
麦わら屋。
四皇を一人引き降ろす策がある、そう言ったのことは嘘じゃねェ。だが、その裏に隠れた俺の思いを知ったら、お前はどう思うだろう。
普通の奴なら怒るところだろうが、まあ、お前のことだ。気にも止めないだろうな。お前のそういうところは、嫌いじゃない。
麦わら屋、すまなかった。
「ドフラミンゴっ!!」
ペンギン、シャチ、ベポ。それに他の奴らも...。先に待たせて悪いな。もう少しだけ待っていてくれ。必ず俺も後から追いつく。
その時は一緒に取りに行こうぜ、海賊王の椅子。お前らのためにも負けられねェ。
「......ローか。」
剣先をヤツに向けた。
「お前のやってることはただの逆恨みだ、ロー!!」
「恨みじゃねェ...。俺はあの人の本懐を遂げる為、今日まで生きてきたんだよ!!」
ドフラミンゴ!俺はお前を倒す。
それが名前さんが俺に頼んだ、最後の願いだから。
今日も貴方がいつも見ていたように、空が青い。なぜかな、貴方の笑顔が浮かぶ。何度も忘れようとしたけど、無理だったよ。貴方以上に素敵な女はいない。
名前さん、今も俺は...。
「笑ってられるのも最後、お前も終わりだ!ドフラミンゴッ!!」
どうかお願いだ、そこで見ていてくれ。今、全部終わらせるから。
俺は地面を強く蹴った。
Fin.