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<企画:Kさんリク。切甘。>

※WJから捏造 ロー過去。
コミックス派の方、注意。



















名前さん、貴方はいま幸せか?
俺は幸せだ。
だけど心のどこかに穴が空いたように、何かが足らないんだ。ふとした時に空虚感が俺を襲う。

あれから海に出たよ。せめてもの償いで貴方の心を背負って。仲間にも恵まれている。調子のいい奴らだが、俺は嫌いじゃない。

ローの嫌いじゃないは好きってことね、そんな貴方の声が聞こえてきそうだ。

ああーーーーー。

できることならもう一度会いたい。その腕で俺を包んでくれ、あの時のように。

でも、やっと貴方との約束を守れそうだ。












「あら、またこんなところにいたの?」

俺を呼ぶ優しい声。その声が聞こえるたび、俺は嬉しかった。

「名前さん!」

「あら...またカエルさんを...。」

13歳。あの頃の俺はいろいろな生き物を捕まえては、解剖に明け暮れていた。内臓。その仕組み。それを知るのがただ楽しかった。

「これは勉強なんだ!」

「勉強?」

「そう。俺は自由になったら医者になるんだ。」

「フフ、ローならなれるよ。でもね...。」

そう言って名前さんは、俺の唇に人差し指を当てる。

「その言葉は口にしちゃいけない。ずっと心に秘めておくのよ。」

ふわりと風に舞う髪。そして香るいい匂い。俺は恋をしていた。

「ロー、貴方はもっと力をつけるの。今はまだ準備するときよ。たくさん勉強しなさい。」

「どういうこと?」

「いつか分かるわ。...もうすぐ若様が帰ってくる。」

そう言って、名前さんはいつも空を見上げていた。どこまでも続く青い空。
そこに何を見ていたのか、俺は知っている。

あの頃の貴方は23歳だったな。俺はもう26になった。気付けば貴方よりも3つ上だ。

今なら守ることができるのだろうか。
いや、無理だろうな。貴方はあいつを愛していた。










「ロー?ロー、いる?」

貴方はいつも俺を呼んでいた。任務から帰ってきたと思われる、血の付いた服。

「名前さん、怪我はっ!?」

「ローは優しいね。大丈夫よ、これは返り血だから。」

「良かった...。」

「もし私が怪我をして帰ってきたらロー、あなたが私を治してね。」

「うん!任せて!!」

俺は必至に勉強した。過酷な任務につく貴方が、怪我をして帰ってきてもいいように。だが、一度も貴方は怪我をして帰って来なかった。

強かったんだ。名前さん、今の俺なら貴方に勝てる?

「それよりね、お土産があるの。医学の本よ。新しいのが欲しい、ってあなた言ってたでしょう?」

「ほんと!?名前さん!」

「はい、どうぞ。」

そう言って任務から帰ってくる度に、俺にいつも何かくれた。

優しい微笑み。
その裏に何人もの命を奪っているという罪を背負い、貴方が苦しんでいるということを知ったのは随分、後のことだった。

もっと早く気付くべきだった。心の優しい貴方には、それがとても重かったんだ。

だけど、あいつから愛されたかったんだよな。もしあの時、気付いていれば...なんて、何度後悔しただろう。きっと気付いていたって同じだ。俺に名前さんは救えない。
それに、今更なにを言ったって貴方はもうこの世にはいないんだ。





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