<船長>
街を彩るイルミネーションに包まれながら、二人は宿へと向かう。コートに包まれているとは言え、コートの下はミニスカートだ。名前の身体は小さく震えていた。
「寒いか?」
「ん、ちょっと冷えてきたけど大丈夫。」
「そうか。もう少しだ、これで我慢してくれ。」
そう言ってローは名前の手を握ると、自分のコートのポケットの中へと滑り込ませる。ローはそれ以上、何も言わなかった。時々垣間見える不器用な優しさが嬉しい。
ぎゅっと握りしめられた手は、温かかった。
「もー、ロー大好きっ!」
「んだよ、急に...。」
「大好きだから大好きって言ったの。」
意味が分からねェ、とローは呟いたがその声はどこか嬉しそうだ。名前はそれを聞いてまた嬉しくなるのだった。
左手には、街の明かりを反射したリングが淡い光を放ち、その存在を主張している。その時、名前はとても大事なことを忘れていたことに気が付いた。
ローへのプレゼントを用意出来ていない。
ちょうど街へ買いに行こうとした時、シャンクスの船を発見してそのまま...だったのだ。名前から笑顔が消えた。
「名前、そんな顔してどうした?」
医者だと言うだけあって、ローは小さな変化にすぐに気付く。心配そうに見つめてくるその表情に、名前の心は小さく痛んだ。
「あ、あのね...っ?」
プレゼントを用意出来なかった、なんて言ったらローはどう思うだろう。
怒ってしまうだろうか。怒るとまではいかなくても、拗ねてしまうのかも?いや、もしかしたらとても悲しませてしまうかもしれない。
そう考えると、なかなか言い出せない。名前は言葉に詰まってしまった。
「名前?」
「私、ローに...その、プレゼント用意出来てなくて...。ほら、買いに行こうとしたら船が...。」
ローの顔を見たくなくて、名前は俯いた。様々な思考が頭を巡ると、悲しさが込み上げてくる。震える声で、ごめんなさい!とローに言った。
二人の足が止まる。
「別にいい。だから、泣くな。」
高身長のローは俯いた名前の表情を伺うために、その場にしゃがみ込む。名前の瞳に映った彼の表情は、想像とは全く逆の優しさに満ちていた。
「お前が俺の傍にいてくれるだけでいい、他は何もいらない。俺は名前が欲しい。」
「ロー...。」
「だから、今からお前を犯す。」
ぐいっと引っ張られる手。ゆとりのあったポケットの中がきつくなった。
「えっ!あっ、ちょっと。ローっ!!」
すぐそこにあった宿へと入りこむ。
ローは予約で埋まっていた部屋を、お金にものを言わせ奪い取ると名前を連れて部屋に向かった。
「私たちのせいで誰かの部屋が無くなっちゃったね。」
「気にすんな。力がある者が勝つ、そんな時代だ。」
「もー...力がある人は弱い人を守ってあげなきゃ。」
「ちゃんと守ってるだろ、名前も船員も。俺は偉人でもねェからな。万人を守る気はねェが、お前らのことは俺が守る。」
さすがハート海賊団、我らが船長。守る、と言ってくれることが嬉しかった。
「ありがとう。...でもね、守られるばっかりは嫌だ。私ももっともっと強くなりたい。ローを支えたいの。」
「無茶だけはするなよ。」
ローは優しく名前の頭に、ポンポンと触れる。
彼は自分のことを、自分の女としてだけではなく、一船員としても見てくれているのだ。ちゃんと力を認めてくれているということを、名前は実感した。