<どんな日々も>
「名前っ!?おい、名前っ!」
「...っん。」
ロー...?どうしてそんなに大きい声出してるの?なんだかとっても眩しい。
「目が覚めたのか!?」
重たい瞼を開くと、目の絵には血相を変えたローの顔があった。気のせいか、目の下のクマがいつも以上に酷い。
「どうしたの?そんなに慌てて...。」
「どこにも異常は無いかっ!?」
「うん、大丈夫だけど。」
「...ったく、心配させやがって!!」
白いシーツの上にローは項垂れる。私は船長室のベッドの上にいた。
ベッドサイドには様々な薬品が置かれ、大量の分厚い書物が散らばったままだった。
「大丈夫?ロー。」
「...大丈夫じゃねェよ!」
目の前の世界が真っ暗になる。柔らかい感触が唇に触れたかと思うと、ローの声が耳元で聞こえてきた。
「もう目を覚まさないかとさえ思った。...クソ、馬鹿女。」
「ちょっと、馬鹿ってそんな風に言わなくても!」
「本当に...っ!お前が無事で、...良かった。」
3日以上、眠り続けていたんだぞ!
何をしても目覚めなかったし、もうダメかと思った。名前を失ってしまう恐怖さえ感じた。
「一体何があった!!」
「そんなこと言われても...。」
「この本に見覚えはないか?」
そう言ってローが差し出してきた本には、星降る夜に、と書かれていた。
全ての記憶が蘇る。
「...あ。」
私の目に、涙が滲んだ。もう一人のローはどうなってしまったんだろう。
急いで本のページをめくろうとした。
「おい、名前?」
「ローが!もう一人のローが!」
「何言って...。その本は何度も見たが真っ白だぞ!...っ!?」
ローは言葉を失った。何度も見た真っ白なページに文字が刻まれている。
名前の手が最後のページで止まった。
「あ...っ。」
そこには星が降る夜空を見ていたローの姿が描かれていた。空に手を伸ばし、微笑んでいる。
が、それも一瞬。だんだんと本は透けていき、あっという間に手の中から消えていってしまった。
「...消えた?」
どうして彼が笑顔だったのかは分からない。けれども、その幸せそうな顔に私の心がかりは軽くなった。
「理解できねェ。俺に分かるように説明しろ。」
「魔法の本だったのよ。」
「あぁ?何言って...「名前ちゃんっ!?」
ガチャン!
シャチが手に持っていたトレイが、床に落ちる。ローのためにお茶でも運んできたのだろう。床がびっしょりと濡れていた。
「うわ、お前の何やって...名前ちゃん!目を覚ましたのか!!」
「シャチ!ペンギン!」
「「良かったーーー!!!!」」
とびっきり素敵な二人の笑顔。それに呆れるロー。
私の大切な日常がここに存在していた。