<星降る夜に>
静かに夜を待った。
空にはいつもよりも多く、星が輝く。
「船長、そろそろ時間です。」
「ああ。名前、分かってるな?俺から絶対に離れるんじゃないぞ。」
ぎゅっと握りしめられる手。私の思いは複雑だ。早く元の世界に戻らなきゃ、ローが心配してる。
だけど、目の前のローの顔が心を締めつける。
ごめんね。
「ペンギン、シャチ、ベポ!お前らに星の欠片の回収を頼む。」
「はい、任せて下さい!」
「アイアイ!キャプテンッ!!」
魔法の効力は消えかかってきていた。一つ、また一つと星が流れては消えていく。
「...始まったか。」
ローは夜空を見上げて、その様子を伺う。赤い星、黄色い星、青い星。
いろんな星が強く瞬いて、個々の存在を主張する。
白い光が尾を引いて、小さな弧を描いた。
「わ...綺麗。」
それに続いていくつもの白い光が、空に線を描いていく。
自分がこの世界から消えてしまうことも忘れて、そのあまりの幻想的な美しさに溜め息をもらした。
魔法の効力が消える。
「名前、手が...っ!」
ローらしく無い焦った声が、頭上から降ってきた。私は自分の手に目線をやる。
うっすらと透けて、真っ白な月明かりでキラキラと雪が煌めく。
握りしめられた手の感覚が消えかかってきていた。
「名前、消えるなっ!!」
「ごめん、ロー。帰らなきゃいけないみたい...。」
「帰るってどこだ!お前の居場所ならここだろうっ!?」
「もう一人のローの場所。」
「どういうことだ?」
「もう一つの世界に私は帰るの。」
切迫詰まったローの泣きそうな顔。
行くな!とどれだけ強く抱きしめられても、もうその感覚さえ感じない。
「意味が分からねェ!!俺が分かるようにちゃんと説明しろ!」
「おい!聞こえねェのかっ!!」
ローの声が遠ざかっていく。
ごめんね、もう一緒にはいられない。
でも、大丈夫。きっと私たちはまた逢える。
「何か言えっ!!」
あれ?おかしいなぁ...私の声、聞こえてない?
「勝手に現れて、俺の許可無く消えていくなんて許さねェ!!お前がいなくなったら俺はどうしたらいいんだっ!」
ロー、泣かないで。お願いだから。
私、この世界で貴方に逢えて本当に良かった。特別な日よりも、何にも無い毎日のほうが大切なんだよね。
ローと一緒にいられるだけで、幸せなんだよね。
「ありがとう。」
「待て、行くなっ!名前ーーっ!!」