<異世界>
1日目。
ローからは必要最低限のことしか、質問されなかった。名前と能力者がどうか。
どこから来たかなどの細かい質問については、ペンギンやシャチから嫌と言うほど受けた。彼らだったから、誤魔化せたがローだと難しかったと思う。
2日目。
島をローと回る。このピアスをプレゼントされたときのように、デートに近い感覚があった。
やっぱりロー、そのものだ。この探索で、一気に距離が近くなったような気がする。
そして3日目。
「おい、名前。飲み物。」
「はーい。」
ローが俺様なのは変わらず、最初からこちらの世界にいたような錯覚さえ覚える。
そんな私たちが惹かれ合うのは当然のことで...。
「名前、ヤりてぇ。」
「え?」
「ヤりてぇ。」
「...何を?」
「分かるだろ、Se「あーっ!!」
大きな声を出して、ローの言葉を遮った。もちろんローのことは、好きだ。
でも、一線越えてしまうことはいけないと思っていた。この時までは。
4日目。
ちょっとローは不機嫌だった。昨日必死に拒んだからかもしれない。だが、少し楽しんでいるようにも見えた。
いつ、私から誘ってくるのかと待っているようだ。
「名前。キスして。」
「...っ!!するわけないでしょ!」
「キスなんて、ただの挨拶だろ?」
「ローとのキスは挨拶だけじゃ済まないと思う。」
「なら、試してみるか。」
近づくローの唇。いけないって分かってる。でも...視線をそらすことができなくて、気が付けば受け入れていた。
「んっ、ふぁ...はっ。」
「んんん...っ。」
ゆっくりと一つずつ、歯をなぞっていく。そのねっとりと私の口内を犯して行くその動きに、恥ずかしさを覚えた。ローは、そんな私のことを分かってやっている。
吐息の中に混ざる、唾液と唾液が混ざり合う音。今にも身体がとろけてしまいそうだ。
「...はぁっ、はぁ。」
「ほら、挨拶だっただろ。」
「っ!!」
どこが。私の心は、身体は貴方が欲しくてたまらない。
疼いてる。
5日目。
この世界に来てから、初めて雪が降った。いつもの日常と変わらない日々に、私はこちらの世界に来たことさえ忘れていた。
「雪ー!」
「何が珍しい。ずっと雪は見ていただろう。」
「そうだけど、雪が降るところは見てなかったから。...そうだっ!」
辺りを見回し、手頃なサイズの棒を拾った。そして真っ白な冷たいキャンパスに、私とローの姿を描く。
「何してる。」
「私とローっ!!」
これからもずっと一緒にいられますように。そんな願いを込めた。
どうしてだろう、ローが嬉しそうに笑った。その笑顔が見れただけで、私は満足だった。
「でも、雪の上に描いたってどうせこの雪だ。じきに消えるぞ。」
ローは小さな子どもを見守るような、そんな目で私のことを見てくる。
「消えないよ。」
「あぁ?何を馬鹿なことを...。」
たとえ雪で消されてしまったとしても私が雪に描いた事実、それは二人の中で思い出として残るでしょう?
そう伝えると、くだらねェとそっぽを向きながら吐き捨てられた。
でも、それはローの照れ隠しだということを私は知っている。
一つずつ、こんな風に二人の思い出を残していきたい。
いつまでもローと一緒。
そんな日々が続いていくと、そう思っていた。
6日目。
「船長!ついに明日ですね。流星群の日!絶対綺麗なんだろうなぁ...、楽しみですね。」
「目的を忘れるなよ、ペンギン。」
その会話になぜか違和感を覚えた。何かとても大切なことを忘れているような、そんな気がする。
流星群...流星群...
あぁ、そうだ。変わりない居心地の良さに、つい忘れてしまっていた。
私は明日、消えてしまう。