<告白>
「あれ、名前は?帰ってくるの遅くないか?」
いい気分で酒に浸っていたシャンクスが、辺りを見回す。少し風に当たってくると言ったまま名前は戻ってこない。
隣にいるのは酒に溺れたペンギンとシャチとかいう若い男2人だ。
「お頭。もういいじゃねぇか。」
「そうだぜ?少しだけでも一緒に過ごせたんだ。」
ベックマンとヤソップが話しかける。
確かに自分たちも名前とクリスマスは一緒に過ごしたかった。だけど、立場っていうものがある。いい大人は綺麗に身を引くものだ。
「だけどよ。」
「諦めろ。どうせ帰ってこねぇよ。」
「...仕方ないな。」
*
「あとどのくらい?」
「あともう少しだ。」
あれからどれくらい歩いたのだろう。結構な距離を歩いたと思う。連れられるまま、坂道を上る。その先に見えた階段。
その小さな階段を登り終えると、広い展望公園のような場所に辿り着いた。
「わっ、真っ白。」
誰も踏み入れていないのか、一面真っ白な雪が広がっている。絶えず降り落ちてくる雪は、音も立てず静かに同化していった。
「行くぞ。」
「あ、ちょっと待ってよ。ロー!」
広い歩幅で歩くローを、名前はやや小走りでおいかける。真っ白な雪のキャンバスに、1歩の間に3歩の足跡が残っていく。
見てみろ、と先に公園の端の柵にたどりついたローが指をさす。名前は心を踊らせながら、その場所へと向かう。
「わぁっ!!」
歓喜の声が名前から漏れた。綺麗、と呟く名前の目には幾千にも輝く光が浮かんでいる。
「ここ、来たかったんだろ。」
「うんっ!!」
つい数か月前に読んだ本に、この場所が書いてあったのだ。夜景の綺麗な島という紹介だった。だが、辿り着くのが困難と書いてあったような...と名前はローに問う。
「坂道しかなかったよね?困難でもなんでもないような...。これだけ綺麗なんだもん。坂道くらいなら他にもたくさん人が来ていたっていいのに。」
「教えてやろうか?」
「何か知ってるのっ!?」
ローはいつもの悪そうな笑を見せた。この笑みを見るときは、ローが決まって何か悪いことをしたか企んでいるということ、と分かったのはつい最近のことだ。
「ラパーンという凶暴なウサギがこの辺りには生息している。」
「凶暴なウサギ?でもそんなの一匹も...。」
「俺が昨日、しつけをしておいた。」
あーなるほど、と名前は視線を外した。だが、そんな生き物が生息しているのならここに二人しかいないことにも、納得がいく。誰もいないことが不思議なくらい、それだけここから見える景色は綺麗だったのだ。
舞い落ちる雪が、幻想的な雰囲気を惹き立てていた。
並んで立つ二人の息は、宙で混じり合い消えていく。
「ロー、ありがとう。こんなに綺麗な景色を見れて私、本当に幸せ。シャンクスには悪いけど、夜は二人で過ごしたいって思ってたんだ。」
「いまあいつの名前は出すな。」
「ごめんね。もしかして嫉妬してる?」
「うるせぇ。」
肩に回された手が、身体を引き寄せる。名前は流れるように、ローの胸に身体を預けた。全身に伝わる温もりが、芯から身体を温めていく。
見つめ合った二人は静かにキスを交わした。
「「メリークリスマス。」」
額をくっつけながら、その言葉を交わす。そして微笑み合ったあと、もう一度キス。お互いの気持ちを伝え合うように。優しく何度も。
「大好きだよ、ロー。」
「...俺からのプレゼントだ。」
そう言ってローはポケットの中から、銀色に光るリングを取り出した。クリスマスプレゼントだと彼は言った。
そして、名前の左手に手を伸ばすと、薬指にそのリングをはめていく。
「ロー、これって...」
「分かるだろ。言葉で伝えるのは得意じゃねぇ。」
少し赤くなったローの頬。名前は何も言わずに胸の前で、左手を強く握りしめる。
涙がひとしずく、そっとこぼれ落ちた。
「泣くなよ。」
「だって...っ嬉しいんだもん。」
「なら、俺がどれだけお前を愛しているか今から教えてやる。」
名前のリングが、街の光を反射してキラっと儚げに美しく光る。二人の姿はクリスマスを祝う夜の街へと消えていった。
真っ白な雪が飾るホワイトクリスマス。
Fin.