<抜け駆け>
色鮮やかな料理が机の上に並ぶ、ハート海賊団の船の中。なぜかそこに加わった赤髪海賊団の幹部達。入れなかった残りの船員達は、赤髪海賊団の船の中でクリスマスパーティーだ。
「名前!俺の隣に来いよ。」
嬉しそうに椅子に座って、隣の空いた席をポンポンと叩く。その頭にはサンタの帽子がちょこんと乗っていた。
「ヒゲが白かったらよかったのにね。」
「ん?あぁ、そうだなっ!!でも、名前が望むならクリスマス以外だって俺はプレゼントを持ってくるぞ。」
「ふふ、それは嬉し...「お前はこっちだ。」
「「ローっ!!」」
シャンクスの横に座りそうになった名前を、ぐいっと引き寄せる。そして自分の隣に名前を座らせた。ムスッとした顔。そんな彼の頭にもサンタの帽子がのっている。
「ローが帽子してる。ちょっと歪んでるよ?ほら、貸して。」
「ん...。」
「ちょっと待ってね。」
そんなラブラブな光景を見せつけられて、シャンクスは頬を膨らませた。
ローに任せると決めたのも自分だが、なんとなく寂しい。やっぱり名前のことが好きみたいだ。幸せそうな顔を見ると嬉しいのは確かだが、実際の二人を見ると心が痛い。
「名前ー!俺のも直してくれよ!!」
おどけた表情で名前の横に座る。シャンクスも?と半ば呆れ交じりだが、名前は同じようにシャンクスの帽子を直してあげた。が、その行為がローの心を刺激してしまう。シャンクスを睨みつけるが、その視線に気付いたシャンクスもローを睨み返す。
名前を間に挟んだ静かな戦いが始まった。
「そんな恰好で寒くないか?コレ、膝の上に置いたらどうだ?」
「ううん。大丈夫だよ、ありがとう。」
「じゃあ、もう少しこっちに来い。一緒に入ろう。」
シャンクスは名前を抱き寄せると、自分のマントで名前をそっと包む。
「なァ、名前。それ、俺に食べさせて。」
その傍らでは名前の利き手側にいるローが、料理を食べさせろとねだる。
「はい、あーん。」
「あーん。」
「今日のロー、なんか可愛い。甘えたさんだね。おいしい?」
よしよし、と頭を撫でるとローは気持ちよさそうに目をつむる。
シャンクス、お前はこんなことして貰えねぇだろ。チラっと見開かれたローの目が、そう訴えていた。
*
あれから何度も同じようなやり取りが繰り返された。気遣ったペンギン、シャチ、ベポがシャンクスに酒を勧めたりもしてくれたが、名前は疲れてしまっていた。
酒で火照った体を覚ますついでに、甲板でのんびりと一人の時間を過ごす。
「もー、二人とも本当に子どもなんだもんな...。」
空から舞い落ちる白い雪。雪...と空に差し出した手には冷たい感触が、少しずつ広がっていく。名前はそっと目線を上にやった。
「あんな二人初めて見たかも。」
身体に残る疲労感とは別の、あったかい気持ちが心の中にあることに気付く。どうなるかと思ったクリスマスパーティーも、なんだかんだで楽しかった。何よりも可愛い甘えたなローが見れるのは、とても貴重だ。
また一つ思い出が増えた。
でも。
「...ローと二人の時間、欲しかったな。」
みんなで祝うのもいい。だけどやっぱり、大切な人と過ごすクリスマスは特別だから。
もし叶うのなら、ローと二人きりで過ごせますように。そんな願いを雪の降る空に願う。
「おい。」
「ひゃっ、ローっ!?」
「これ、着ろ。」
突然、後ろから呼び止められ振り返ると、コートを手に持つローがいた。さっきの聞かれて?と思い質問しようとしたが、そんな間もなくコートを着ろとの指示が振ってくる。ローに急かされるまま、名前は仕方なく袖を通した。
「寒くないか?」
「うん、大丈夫だけど。」
「なら行くぞ。」
ぎゅっと握られ、ひっぱられた手。ローの手は大きくて、温かくて。
「どこ行くのっ!?」
「街。」
もうそれ以上は何も言ってはくれなかった。
サクサクっと積もった雪の上を歩く、二人の足音だけが聞こえる。それに合わせているかのように、自分の心臓が動いているのが感じられた。はっきりと分かるくらい、ドキドキしていた。