<涙>
(嫌だと可愛く言ってくるかと思えば、わざと俺を避けやがって何故避ける必要がある!?)
今日の名前は普段よりも、ペンギンたちとの距離が近かった。
嫉妬させるつもりが、そのことで反対に嫉妬する羽目になるとは、とんだ誤算だ。
ローの苛立ちは強くなる。
ガチャっと船長室のドアを開けた。暗い部屋を進むと、名前はベッドの上で横になっている。
寝る時までも避けられると思ったが名前なりの気遣いか?何はともあれ、ここで寝ていることにローがほっとしたのは事実だ。
上着を脱ぎ、放り投げた。ローの重みがかかったベッドはギシッと音を立てて歪む。
(寝ているのか?いや、起きているな...。)
「おい、名前。」
その声に反応して名前の身体に、一瞬だけ力が入った。
「どうして俺を避ける?」
苛立ちから来る、今すぐにでもめちゃくちゃにしたいという欲を抑え、ローは名前に問う。
「...........。」
だが、どれだけ待ってみても名前からの返事は無い。
「.......っ!!」
痺れを切らしたローはぐいっと名前の肩を掴み、仰向けにすると両手を抑え、上に覆い被さった。
キスしようと顔を近付けたが、途中でその動きが止まる。
目の前の名前の頬を、涙がツーっと流れ落ちていくからだ。
「お前っ、なんで泣いて...。」
「だって...。」
貴方の顔を見てしまうと、どこにも行かないで。と、そう言ってしまいそうで。
自分勝手なことは、嫌なくらいに自分が分かっている。
それでもその手を放したくなくて。もう、どうしたらいいのか分からない。
ローの身体の下で小さく泣く名前の姿は凛とした雰囲気が無く、華奢な女そのもので。
今までにも時折見せていたその姿が、ローの心を揺さぶっている。
(またこいつは...。)
名前に泣かれ、どうしたらいいのか分からなかったローは、片手で頭を抱え溜息をもらす。
しばらく何かを考えているのか、黙ってしまった。
そんなローから出た言葉は、ごくありふれたものだった。
「もう泣くな。」
名前の頭に手を伸ばす。柔らかい髪に触れそっと撫でた。それでも泣き止まない名前を、ローはぎゅっと抱きしめる。
「頼むから泣き止め。その...なんだ、嫌なんだよ。」
「ヒックっ、...ッ。」
「お前に泣かれるのが...っ。」
目を開いた名前はびっくりした。初めて見る表情だった。
困らせている、と分かったが溢れだした涙は簡単には止まらない。必至に漏れでる嗚咽を止めようと、名前は何度も息を止めることを繰り返した。
ローには名前が泣いている訳は分からなかったが、その原因なら予想がつく。
虐めたいとは思ったが、泣かせるつもりは無かった。どんな男でも惚れた女の涙には弱い。
「手ェ、どけろ。」
頬に手を当てて親指で涙を拭う。こぼれる涙を何度も。
“悪かったよ。”
名前の耳元で呟く。
少し空気の混じった声が、余計に名前を切なくさせた。
「どうして、ローが謝るの?」
「お前が泣いているからだ。」
「別にローのせいじゃ...っ!」
もう優しくしないで。今よりもっと好きになってしまうから。
でも、どれだけ好きになってもシャンクスのことを忘れるなんてできない。
彼が好きという感情を止めることはできない。
「じゃあ、なぜ泣く?」
「...私が駄目な女だから。」